第11話

豊と会ってから一週間近く経って、今日は日曜日だ。まあ俺は今日シフトだから休みでは無いんだけど。

 今日は、稲葉さんは居ない。なんかバンドの練習があるとか言っていたっけ。

「今日は昼さえ何とかなれば後はまた暇だから。人数少ないけど、よろしくな」

 と、さっき所長が言っていた。だからまあ多分稲葉さんが居なくても何とかなるだろう。俺もだいぶ仕事覚えてきたし。というか何とかするしかない。

 んで、昼。所長の言うとおりそこそこ予約が入っていて、とてつもなく忙しい。俺がバイトを始めてから今までで一番キツイと言える程だ。俺は一生懸命やった、マジで。

 ずっとバタバタしていたが、途中ある事に気づいた。スタンドの端にある駐車スペースに見覚えのある黒いセダンが停まっていることだ。まあ十中八九豊のマークツーだろう。こっちは忙しいってのに、何しに来たんだか。

 それからおやつ時くらいまで時間が経って、やっと予約を捌ききった。実に三時間強動きっぱなしだった。ほんと疲れた。

 結構時間経ってるのに、豊は帰っていなかった。他のお客さんとかとお喋りしているが、暇なんだろうか。

「藤井君。疲れてるとこ悪いけど、藤井君も豊に何とか言ってやってくれ。ここは遊ぶとこじゃ無い、用がないなら帰れって」

 所長は呆れた様子だ。仕事中ちょくちょく豊の所に行っていたが、中々帰ってくれなかった訳か。

「わかりました」

 豊には悪いが、店に溜まるのは良くない。ファミレスやカフェじゃないんだし。俺は一言豊に言うことにした。

「豊」

 俺が呼ぶと、豊は他のお客さんとの話を中断して、俺の方に駆け寄ってきた。今まで話してたお客さんほっといてこっちを優先してくれるのかなんて考えたらドキドキしてきた。健気な良い子で可愛いね。

「タク! 仕事終わりっすか?」

「いや、まだあるけど。それより豊。用も無いのにずっと居座るのはまずい。何も無いんなら帰りなよ」

 そんな子に言うのはなんだか忍びないが、所長の言うとおり一言言った。「いやー、すんません。話が込んじゃって」みたいな感じでニコニコ笑って謝って来るんだろうな。が素敵な人は良いよな。

 だが俺の予想とは真逆で、豊は少し機嫌が悪くなって居るみたいだ。なんでだ?

「様も無いなら帰れとは失礼っすね! 自分、長いことタクを待ってたんすよ?」

「えっ」

 マジか。俺待ちだったのか。だったらめちゃくちゃ失礼だわ。てかそんな待ってくれてたのか、良い子や。

「そ、それはごめん。でも所長も怒ってたし、俺の仕事が終わりそうな時間になるまで他のとこれ時間潰せば良かったんじゃ」

「それに関しては、ただあっこのおじさんとの話が込んじゃっただけっす」

 いや俺のせいじゃないじゃん。まあ間接的には俺が悪いんだけど。

「こんな話するために待ってたんじゃ無いんすよ。タク、今日の夜暇っすか?」

「夜? まあバイト終わったら暇だけど」

「なら良かったっす。今日走り行くんで、よかったら一緒に行かないっすか?」

「え、マジ?」

 走り。つまり走り屋の活動をするってことだが、それに連れて行ってくれるのか。漫画の中だけの世界だと思ってたのに、まさか実現するとは。いやー初ドリ行けるのか。なんかもうアドレナリン出そう。

「いいの?」

「もちろんっす! こないだ連れて行くって言ったじゃないすか」

「あ。じゃあ、よろしくお願いします」

 つい敬語になっちゃった。まあ人に物を頼むときってのは丁寧に越したことは無いだろう。

「おっけーっす。じゃあバイト終わるくらいに迎えにいくっすよ」

「りょーかい」

 あれだけ長く居座っていたのに、豊は俺に手を振ると、すぐに帰ってしまった。でも、ずっと待たせてたのは、なんか申し訳ないなぁ。

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