― 蜻蛉一号 ―


振り向いたら、歩けないよ。


待っていても、潮の風に体は錆びて。


微かなくつ跡も波にのまれる。


おなじ気がした。


たとえば君は僕で、僕が君。


同じ場所で生まれて、違うところで生きるんだ。


だから歩いて。


心はそのまま、行けるトコまで。


憶えているよ。


君の記憶は、僕が引き受けるから。







― 蜉蝣二号 ―


延々と続く砂浜は、


どこまで歩いても、時が止まったままのような鉛色で。


波打ち際に転がった、


ぼくと同じ錆びた赤銅の塊には、


音も無く繰り返しさざ波が打ち寄せていた。


心を引きずるように、足あとを繋げる。


空も、地面も、海も、同じ臭いがしていた。


取り残された、確かな命の幻影が、


失くした世界の色を探して嘆いてる。


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五月雨帳 五月 @Satuki_005

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