あいまみえ、覚醒する
沙夜のいる
毒牙を持つマムシたちが、こぞってとぐろを巻いてシャーッと威嚇する様は、おぞましいの一言に尽きる。
沙夜は当然まともに見ることができず、玖狼の背に顔を埋めて耐えた。
それでも愚闇が
明らかに後宮内がおかしいということが知れ渡り――次々と姫たちは、皇都にある自身の生家や親族の家屋敷に移り始めた。『やんごとなき家の事情』であれば家に戻ることができる、と言うのは姫たちに与えられている正当な権利である。今や後宮に留まっているのは、清宮を含んでも数名しかいない、とすずが言っていた。
「ねぇ愚闇……わたしも、後宮の外に出たいんだけど」
「え。無理っす」
「なんで!?」
「外ったって、どこか行く当てでも?」
「うぐう!」
――まさか……わたしをわざと孤立させた?
「玖狼。わたし、分かっちゃった」
「うぅん!?」
ぴるるん! と大きな黒い耳が揺れるのが動揺の証拠だ、と沙夜は確信した。
「これって、あの
「そ、そうか……?」
「だって今まで一日おきに通ってたのに来ないし!
不自然に、連絡を絶っている気がしてならない。
「ギー様のことも全然聞かなくなったし! さてはふたりして、何か隠してるでしょ!?」
あえて聞かずとも「
何も言わないのは明らかに変だ、と沙夜は気づいた。
「ええっとですね」
「しゃべるな愚闇」
「ひゃいっ」
がう、と玖狼が噛みつくように止めたことで、確信に変わる。
「くーろー?」
「はは。われらがおるからには、心配無用だぞ沙夜」
「答えになってないし! でも肯定ってことだよね!」
くわ! と目を見開いてから、玖狼の背をポカポカ殴ると
「いだだ、沙夜、痛い」
言葉と裏腹に笑う黒狼は腹を見せ、そこに沙夜は遠慮なく顔をうずめる。
「……いちゃいちゃしてる……」
部屋の片隅で、隠密がひとり、
◇ ◇ ◇
答えは、次の日の夜に
「お初にお目にかかる、
艶やかな
年の頃は、沙夜より少し上ぐらい。大きな瞳が白い肌に映える。が、赤すぎる唇は、美しいと言うより異様である。
「え……と……」
「わらわを知らぬてか」
ギッと鋭く睨まれた沙夜を庇い、愚闇が
「
と問うと
「無礼な! バケモノの隠密ごときが、わらわに話しかけるなどと!」
激高しカッと見開いたその目が、蛇の目に化けた。瞳孔が細い縦長で、周りは金色になっている。
おまけに彼女の周囲には黒い
「なにか、御用でしょうか?」
無理やりに気を奮い立たせた沙夜が、改めて声を掛けると
「ふん。卑しい平民の分際で両殿下の
シャーッと口を大きく開け、ちろちろと長い舌を見せつけてくる様は、とても恐ろしい。
玖狼が、物悲しそうに言う。
「どこぞの高貴な姫だったろうに、
「うるさい! 問うておるのは、わらわの方じゃ!」
シャー! と今度は単の裾から蛇の尾がのぞき、ガラガラと音を立てて左右に細かく揺れた。
玖狼も愚闇も、これは毒蛇だと一層警戒する中、
「桜宮殿。わたくしは、誰の寵愛も受けていないです」
沙夜が正直な心で発する。力のある澄んだ声が、桜宮にはまた憎く聞こえた。
「そのように、誤魔化すなどと!」
単の襟元から、ずるりと出てくるは蛇の体である。顔は桜宮そのままであるのが、余計に恐ろしく醜い。
玖狼は犬歯を見せつけるように唸り、愚闇はいつでも斬れるよう身構えた。
「許さぬ……許さぬぞ……わらわは、わらわはっ」
「ああ、なんてひどい……」
沙夜はそれを見て、両目からとめどもなく涙を流した。
離宮であやかしを消した時のように、両眼が瑠璃色に光っている。
「桜宮殿。あなたさまは、お家の犠牲になったのですね」
「っ! 言うなあ!」
――ガチインッ。ギリリリ……
シャーッと襲い掛かる毒牙を即座に防いだ愚闇の忍刀は、彼女の口の端にギリギリと食い込んでいる。
攻撃を押しとどめているに過ぎないその
「さがれっ!」
だが沙夜は、桜宮に近づいた。強い信念を持って。
「見えるだけの力なら、いらぬ! この人を! 助けたい!」
突然、目も
「ぐ」
「!?」
「やれやれ。まこと恐ろしき女よな、
――沙夜。その胸の内に託した『瑠璃玉』は浄化の力である。なにもかも暴き清める、まこと強いものだ。それでも、使うか?
――使います。
――さすが我が娘よな。覚悟は受け取った。継承を認めよう。ただし、使い方を誤るな。誤ったが最後、肉体も魂も失うぞ。
――はい。
「浄!」
視界が青く潰されている中、響いた沙夜の凛とした声に、玖狼も愚闇も戦慄した。
ありとあらゆるあやかしを
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