聖女との婚約を破棄したハーレム王子に、ザマァを仕込んだので、王太子になれませんよ

甘い秋空

一話完結 7人の妖艶な美女軍団



 王宮でのキラキラしたパーティー会場で、今まさに、山の頂上を目前にして、転がり落ちる者がいます。



「ギンチヨ嬢、お前との婚約を破棄する!」

 第一王子が、宣言しました。


 パーティーに参加している貴族たちが、静まり返ります。


 私は、聖女として第一王子の婚約者となった、侯爵家の銀髪の令嬢、ギンチヨです。



 彼の横にいるはずの、ピンクの髪を持つヒロインは、今、私の横で泣いています。


 私を引きずり落して、聖女になったばかりのヒロインです。

 しかし、彼女が立つはずだった彼の横には、7人の妖艶な方々が立ち並んでいます。



「理由をお聞かせください、第一王子様」


「見ればわかるだろ。この美女軍団を!」

 彼が、横に並ぶ方々を手で示します。


 赤い髪、オレンジ、黄色、緑、青、紺、紫の髪と、見事に七色でそろえた方々です。


「どこの令嬢だ? あんな美女たちは見たことないぞ」

 貴族たちが小声で話しています。



 泣いているヒロインが、第一王子をにらみます。


「わかりません、この世界のヒロインである私が、この様な仕打ちを受けるなんて、シナリオから大きく外れています」


 彼女の、いつもの妄想が始まりました。


「私よりも美女が、しかも7人もいたなんて、聞いてません」


 また、泣き始めました。



 私は、顔を隠して、密かに笑いをこらえます。


 ふふ、あの7人の方々は、ヒロインを地獄に落とすため、各地から集めた刺客なのですよ。


 第一王子を愛する者、しかも7人を探し出すのは大変でしたが、苦労の甲斐があったというものです。


 目的であったヒロインの排除、彼女と浮気した彼にハーレムを作らせ、彼の有責で婚約破棄を勝ち取ることが出来ました。



 近衛兵が、泣きじゃくるヒロインを引きずり、パーティから退場させました。


 このヒロインに聖女を譲っていますので、彼女には修道院で一生を過ごしてもらいましょう。私に突っかかってきたことを後悔しなさい。




 さてと、次は、第一王子にザマァして、彼の泣き顔を拝みましょうか。


「第一王子様、その横に並び立つ妖艶な方々は、私が教育したということをご存じですか?」


 ニヤリと、話しかけます。


「なに? どうゆう事だ」

 彼は、いぶかしげに聞いてきました。


「妖艶な化粧、女性としての振る舞い、全て、私が叩き込んだ、王国最高の軍団です」


 貴方は私の手の上で踊らされているのだと、彼に告げてやりました。


「なんだと!」

 彼の驚いてる顔が、可笑しいです。


「皆様、聞いて下さい、妖艶な方々は、7人全員、男性なのです!」


「「え~!」」


 パーティー会場に、どよめきが沸き起こりました。


 この瞬間のために、これまで苦労してきたのです。



「なんだ、そんなことか」

 え? 第一王子が平気な顔をしてます。


「俺も最初は驚いた」

「しかし、ハーレム生活をしてみると、これが素晴らしかった」


 彼は、恍惚の表情を見せました。


「俺の身も心も、彼らに惚れこんだ!」

 パーティー会場が、静まり返りました。


 同性愛は、貴族社会ではよくある事です。問題は、彼は王家の血を後世につなげる王太子だという所です。



「なんてこと……」

 私の考えたザマァ作戦が、水泡に帰した瞬間です。


 勝ち誇る彼の前で、私はガックリと肩を落としました。


 両脇を近衛兵に護られ、パーティーから退場します。


    ◇


「ギンチヨ、待ってくれ」


 第二王子から呼び止められました。黒髪のイケメン、学園時代の同級生です。


「どうしました? 第二王子」

 少し恋心があるので、ワザと素っ気なく返します。


「しばらく、私の私邸に身を隠しませんか。貴女のことなので、やり返すことを考えているのでしょ?」


 さすが、学園で私と主席を争ったクロガネ第二王子です。



    ◇



「ギンチヨ、緊急事態だ」


 第二王子のクロガネ様が、黒髪を少し乱して、部屋に入って来ました。


 私は、今、彼の私邸に身を隠しています。普段着に着替え、のんびり読書をする毎日を満喫している所です。



「あの美女軍団は、本当に7人全員が男性だった!」


「そうですよ、探すのに苦労しました」



「兄は、彼ら7人に骨抜きにされ、今では彼らに溺れている」


「いや、兄だけじゃない。貴族たちも、彼らは美貌だけではなく、仕事も優秀であることに気が付き、引き抜こうと、躍起になっている」


 クロガネ様は、呆れています。



「第一王子の醜聞を広めて、ザマァを楽しむ、私の計画が……」


 逆に、第一王子へ、いや貴族社会に、新しい風を招き入れてしまいました。



「国王は、第一王子には子供を作れないと判断し、王太子の立場を返上させた」


 クロガネ様が、キリッと私を見つめてきました。


「これから大事なことを話す。でも、一つ確認したい」


「はい? 私が分かる事なら」



 少しの沈黙の後……


「ギンチヨは女性なのか? 私の子供を産むことはできるのか?」


 私の顔が熱く赤くなったのが、自分でもわかります。


 ここは、殴っても良い場面ですよね……



「学園時代に、貴女の机に恋文を入れたのは私だ、恥ずかしくて名前は書けなかったが私なんだ」


 唐突に、なんですか。


「ええと、私がイタズラだと怒って破り捨てた、あの恋文ですね」


 懐かしい思い出です。恋文をもらってうれしかったのですが、私には密かに想っている男性がいたのです。その人は……



「学園時代から、ずっと、女性のギンチヨが好きだった。男性の私と結婚してくれ」


 彼が、片ヒザをついて、求婚してきました。



「……クロガネ様、混乱しているのはわかりますが、もう少し女性の気持ちを勉強してから、プロポーズして下さい」


 彼は固まっています。すぐにOKをもらえると考えていたようです。



「それまで、私は、クロガネ様の私邸で暮らしますので、私が女性であることを確認して下さい」


 優しく微笑みます。




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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