その幽霊は白粉の匂いがした。

陽山京介

第1話

  幽霊の正体見たり枯れ尾花。これは自身の体験を記したもので、そういった他愛のない話である。


 私が幼いころに両親は離婚した。今では珍しくもない母子家庭も、当時、しかも田舎ではそうでもなかった。子供の頃は気が付かなったが、町内会の大人達には差別されていたようで、今になれば他の子供よりは不遇されてはいたと思い当たる節も多少はある。

 当たり前だったし、そういうものなんだろうと子供の頃は平然と受け入れていた。それに対し普段温厚な父方の祖父が激怒してたという話を、私が大人になってから母から聞いた。父は養育費も出さないような男であったが、祖父は代わりにそれを払い、両親が離婚した後でもとても良くしてくれた立派な人であった。

 誰かが自分では当たり前で、気が付けない理不尽に対し本気で怒ってくれる。これは上手く言葉にはできないがとても嬉しいことで、アニメのツンデレキャラってのもギャップがどうこうではなく、怒りっぽくて主人公の代わりに怒ってくれるところが私は好きである。

 話がそれてしまったが、本筋はその祖父のお墓参りに行った後の話である。


 大人になり、父方の家系とは疎遠になった。祖父が亡くなった際に通夜に参加した程度である。それでも祖父には大変世話になったものだからと、盆休みには一人で祖父の墓参りに行き線香をあげていた。

 そして盆休みは右肩の肩こりが非常に酷く、頭痛に苦しみながら薬局で安売りされていた温感シップを貼りながらも、休みをネットゲームに費やしていた。

 その事をツイッターでツイートすると、「またですか」とホロワーから返信がった。なにが「また」なのか?理解できずに自身のツイッターを見直すと、毎年墓参りに行った後酷い肩こりに悩まされているようだった。

 昔、肩が重いならそれは幽霊に憑りつかれているからなんて話を聞いた覚えがある。もしかしたら肩がこんなに痛いのも、墓地で何か連れてきてしまったからではないだろうか?そんな憶測にネットゲームをしている最中も、私はビクビクと後ろを振り返ってしまう。

 ふと、白粉おしろいの匂いが鼻腔をくすぐった。

 それが白粉の匂いなのかは、正直今でも分からない。私は白粉の匂いなんて嗅いだこともない。でも私にとってそれは白粉の匂いだった。

 家には三面鏡がある。子供の頃その引き出しの化粧用品がいっぱい詰まった棚からとてもいい匂いがしたので、私が母になんの匂いか尋ねると「それは白粉の匂いだよ」と返ってきた。

 私は三面鏡の引き出しが開いていて、それが置いてある部屋から風が流れて来たのかなと思い、確かめに行ったがそうではなかった。念のため三面鏡の引き出しを開けてみても、昔嗅いだ匂いすらしなかったのだ。

 首を傾げつつもネットゲームを再開させるが、時折、ほんの一瞬その匂いがする。お参り後の肩の件もあり、怖くなった私はゲームを中断すると、インターネットで「白粉 幽霊」で検索する。すると、白粉の匂いがするのは、白粉を塗った女の幽霊があなたの顔を覗き込んでいるからです。といった内容の話が出てくる。

 見なければよかった。後悔しながらも私はそれを忘れるようにネットゲームを続けた。そして夜になり、背後から白粉の匂いがした気がした。

 私は振り返る。

 そこには何も無かった。だが、私は気が付いてしまった。

 この温感シップ・・・白粉の匂いがする・・・と。普段使わない安売りしていた温感シップの匂いだったのだ。馬鹿馬鹿しい話である。


 さて、余談なのだが、私は週一回氏神様にお参りに行っている。

肩こりと頭痛を抱えたままその日もお参りを済ませた。その帰り道、真っ黒の蛇の影のようなものが地面に潰されていた。くっきりとした黒い蛇の周りには中身の水分が染み込んだようにコンクリを薄暗く濡らしていた。先ほど軽トラが走っていたのでそれに潰されたのかもしれない。なんとなしに不気味だなと思いながらも帰路を歩むが、気が付くと一切の肩こりが消えていた。氏神様は八岐大蛇を討伐した素戔嗚尊すさのおのみことである。もしかしたら悪い何かを退治してくださったのかもしれない。

 

 さらに余談ではあるのだが、祖父は神道だった。「神道ではお線香をあげてはいけない」と、ただ注意されていただけかもしれない。

 いやただのネトゲのやり過ぎだと今は思う。

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その幽霊は白粉の匂いがした。 陽山京介 @hiyamakyousuke

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