第11話

 

 六回目の結花の命日がやってきた。


 その日の朝、俺は花束を二つ飾った。結花のぶんと、つばめのぶん。


「みゃあ」

 白と黒の斑模様が足に絡みついてくる。


「おぉ、腹減ったのか、ユイカ」


 小さなその後頭部を撫でてやると、ユイカは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。穏やかな時間に、心が凪ぐ。

 花を愛でながら、少しだけ色を取り戻した部屋を眺める。

 

 あぁ、神様。

 きっとこの世のどこかにいる神様へ。

 ありがとう。

 俺は、あなたに感謝します。最後にもう一度、結花に会わせてくれて……つばめに巡り合わせてくれて、本当にありがとう。


 たとえ結花と添い遂げられない運命だとしても、俺は結花に出会えて、心から幸せだった。


 つばめと過ごせて、生きることの尊さを知った。

 

 俺はまだ、君を忘れられないけれど。

 でも、今は毎日がカラフルに色づいている。


 ずっと嫌いだったこの世界。

 君と出会わせてくれたこの世界が、君との思い出が詰まったこの町のことが、今ではすっかり大好きになった。


 またいつか、君に会えるその日が来るまで、俺はこの世界で精一杯生きていくことにするよ。


 風が花を撫でていく。

 風が花の香りを運んでくる。青い空。雲ひとつない秋晴れの空を見上げ、俺は眩しさに目を細めた。

 

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八月のツバメ 朱宮あめ @Ran-U

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