第8話 分からせる必要がありますね(クラリア視点)

「しかし、またライバルが増えましたねえ」


 私——クラリア・クラリッサ・バートリーは授業を受けつつ、ぽつりとそう呟く。


 私と彼が出会ったのは一年ほど前。私が、この学園で一番の……いや、帝国でもトップクラスの天才だと信じて疑わなかった時です。


 私は才能とは血統によって生み出されるもの、そう信じていました。


 天才とは生まれるべくして生まれて、成るべくして成る。貴族たちが自分を超える天才を生み出すために、結婚相手を厳選するように。


 その点、私は最高の血を持って生まれてきました。


 私を超えるような傑物は現れないだろう。バートリー家が六百年かけて生み出した魔法の天才。神童。


 生まれつき身体が弱いということすらも才能の一つ。身体機能の低下と共に手に入れた人間離れした魔法の才能。魔法で超えるものはいないとそう信じ続けていました。


 しかし、私の前に現れた彼はそんな私の常識の全てを粉々に破壊しました。


「分からせられた……ふふっ、いい思い出ですね」


 あの日のことを思い出すとついつい声に出て、頬が緩んでしまいます。


 彼を見たのは偶々。普通科の魔法演習の授業。特進科のそれとは比べ物にならないほど低レベルで、拙い授業。


 我々特進科とは違う、凡才の集団。見るに値しない中、一人だけいた異物。


 驚くことに《魔力を全く消費せず魔法を使う》》生徒がいたのです。無駄のない完璧な魔力操作。


 恐らく特進科の誰もそんなことは出来ないでしょう。魔力がなければ魔法を使えないのは当然のこと。その当然の原則を破る異物が、普通科にいました。


 初めて見た時は目を疑い、あり得ないものとして思考から切り離したのも束の間。


 次に彼と出会うことになった出来事で、その疑いは確信へ。私の中に嫉妬という初めての感情が芽生えます。


 入学してから初めての座学試験。全学科共通で行われるその結果は、上位のほとんどを特進科が占領していました。


 ただ一点、一位を除いては。


「私は一位ではなく、二位。あの日から今に至るまでずっと」


 一位の生徒は普通科。試験結果が張り出された掲示板前でのやり取りは今でも鮮明に思い出せます。


「凄いじゃないか! キミは普通科の星だよ! なにせ、あのバートリー家のご令嬢を差し置いて、全科目満点、一位なのだから!」


「ま、まあ授業で習った範囲だし、精一杯勉強しただけだよ、そんなに言われると背中がむず痒くなる……」


「ははっ! それでいいのだよそれで!」


 掲示板の前で盛り上がる二人の生徒。一人は見たことがない女子生徒。もう一人は以前見かけた男子生徒。


「ふふん、私の気分がいい。どうだい? 今日のランチは私が……」


「失礼。貴方がアルト……という生徒で間違いないでしょうか?」


「そうだけど……君は?」


 まあここでぶっちゃけますと、初対面の印象は最悪です。だって、私一年の首席として入学式でスピーチとかしているんですよ。


 自分の容姿にも自信はあります。もう少し背が伸びて身体の凹凸がはっきりすればありがたいですが……ないものねだりはいけません。けど、一度私のことを見た殿方が忘れるようなこと、人生で一度たりとも経験したことはありませんでした。


「な、な……私のことが分からない……!? 貴方正気ですか!?」


「え……、いや初対面のはずだけど、どこかであってました? でしたらご無礼を……」


「ほらほら、彼女がそのバートリー家のご令嬢だよ。入学式でスピーチしていただろう」


「……ああっ! あの時の可愛い人!」


「……んなっ!?」


 忘れてた人のことを、可愛い人って呼ぶなんてどういう神経していたんでしょうね彼。今になれば嬉しいですが、当時の私はそういうわけにもいかず。


「……決闘。決闘ですっ! 私にこんな恥をかかせた貴方を後悔させてあげます!!」


「……ええ!? い、いきなりすぎないですか!? もしかして貴族ではこれが普通なのかな……?」


「普通じゃないと思うよ間違いなく。でもまあ、癪に触るところとかあったんだろう」


「とにかく受けなさい!! 私が負けること、万が一……否、億に一つもあり得ませんが、負けた場合なんでもしてあげますっ!! 代わりに私が勝てば今までの無礼がどれほどのものだったか……骨の髄まで刻み込んであげますっ!!」


 ……この時の私野蛮すぎですね。いやまあ、それだけ現実を知らず、プライドが高かったと思っておきましょう。今はそんなことありませんしね……ね。


 まあそれから決闘を受けた私はコテンパンにやられました。私の魔法は一つも通じず、私はたった一発の魔法で気絶……生涯初の敗北をこれ以上になく叩き込まれたのです。


 天才だと思っていた自分。


 それを破壊し、蹂躙する天災。百代前に渡っても貴族の血なんて一つもない、平民から現れた突然変異。


 私の常識、考え全てが破壊されていくと同時、私の中に芽生えた未知の感情。


「もっと知りたい……! 彼のこと何もかも! 彼の才能は尊重されるべき……この国の至宝! 私の役割は彼をより輝かせること……!!」


 この国の古き思考。停滞しつつある現状。それを打ち破るのは彼だろうと、私は信じてやみません。彼はこの国すら変えうるとてつもない才能の持ち主です。


 故にその価値や才能を知る私が彼の才能を広めるべきだと思い至りました。


 どうすれば分かりやすく彼の凄さを人に伝えられるか。私が口にしても半信半疑になるでしょう。信憑性に欠けると思います。


 故に恋人として振る舞う。バートリー家のご令嬢の恋人が平民。これで興味でる人や私の言葉に信憑性を持たせるっていう寸法です。我ながら天才ですね。


「しかし、誤算でした。まさか弟子と妻を作ってくるなんて……さらには義妹まで」


 増えていくライバル。彼の凄さを強調するのは結構ですが、最初に彼を見つけたのは私。私こそが彼の一番になるべきだと考えます。


「ランカスター家……。まさかここまでやるとは!」


 ランカスター家は上位貴族の中でも新参。ここ百年くらいで上位貴族の仲間入りを果たした家系です。


 彼を取り込むことで上位貴族内での立場向上を狙ったのでしょう。実に効果的だと思います。しかし、彼を手にするのは我々バートリー家……いや、私!


「こうなればランカスターごと、バートリー家に取り込む方針でいきましょうか。ふふっ、楽しみですね。賑やかになるでしょう」


 先手を打たれてしまった以上仕方ありません。次の手を考えるまでです。


 ま、弟子も妻も義妹も結構ですが、恋人が真に強く優れていること。それを分からせる必要がありますね。かつて、彼が私にしたみたいに。


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魔法学園のお姫様をわからせたら、義妹になった件……マジで? 路紬 @bakazuma

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