第7話 おにーさんにはイイコトしてあげますよ

「いえ、今日こそは公認の弟子にしてもらうのです! 私がうかうかしている間……よもや義妹に加えて恋人まで公認になっていたなんて……!! 私も置いてかれるわけには行かないのです!」


「いや、義妹はともかく恋人を公認にした覚えはないからね今のところ」


 義妹も認める間もなく外堀埋められて、認めざるを得ないっていうのが正しいけど、多分彼女らには関係ない。


「でしたらどうやったら私のことを弟子にしてくれるのですか!?」


「いや、弟子を取ってるつもりない……」


「嘘なのです! 私は覚えていますよ。君はもう少し自分の戦い方を突き詰めるべきだ、何か困ったことがあれば相談に乗るよって!

 これはもう師匠としての助言ではないのですか!?」


 そ、そうきたか〜〜〜〜!!!


 確かにお節介かもしれないけど言った覚えはある。いやあれ、友達として相談に乗るよくらいのニュアンスで言ったつもりだったのに、師匠としての言葉として捉えてしまったか〜〜!!


 って、これ僕に逃げ道なくねえか? 詰んでね?


「これはもう私の師匠だと思うしかなかったのです! 悩んで迷走していた私を完膚なきまでに叩き潰し、正しい道を示す! これが師匠でなくて一体なんだと言うのですか!?」


 サクラの言葉に僕の両隣が強く頷く。いや頷かないで……。


「これはおにーさん、責任取るべきです。義妹である私を一番大切にしてくれると信じてますし、まあ恋人と弟子くらいは許しますよ。私は心の広い義妹なので」


「それについては私も同感です。アルト君は少し人を勘違いさせるような言葉を無自覚に言いますからね。いいお灸になるでしょう。ですが、私とのデートは最優先です。私たち恋人ですので」


「ほらほら二人とも同意しているのです! これはもう認めるしかないのです! あ、ちなみに私との鍛錬は最優先事項なのですよ。師弟関係とはそういうものと故郷で教わったので!」


 三人の視線が急に鋭くなり、互いに火花を散らす。なんでこの人たちはこうも、私が一番的な発言をしちゃうのかなあ!?


「ふふっ、こういうのは恋人である私に譲るべきですよお二方。なにせ私がアルト君との付き合いが長いですので」


「付き合いの長さは関係ないのです。というか、私とクラリアはほぼ同じなのです。ということはより濃厚な付き合いをしている私に譲るべきなのでは?」


「先輩方一年という時間があったのに二人とも自称じゃないですか。私は名実ともにおにーさんの義妹いもうと。年下の私に譲るという心の余裕はないんですね。先輩たちなっさけなーい!」


 初対面の時に思ったけどアリスって人を煽りがちだよね。魔法使いって割と人を煽る体質の人多いからもしかしてその影響なのかな?


 けど、その発言は悪手だ。だって、それ、二人に共通の敵を作ってるようなもんだし。


「サクラさん、とりあえず一時休戦と行きましょう。どうやら我々は可愛い後輩にをしていなかったようなので」


「そうですね。優しい師匠では少々足りなかったようなので、同じ学科の先輩としてどっちが上か、しっかりと教育すべきなのです」


「ふ、ふぇ……? いいいいいやいやいやいや、こーはいですよ私っ! 先輩たちは囲って殴るんですか!? それなら私にも考えがあります!」


 アリスは怯えながらも僕の後ろに回り込む。僕を盾のように二人の前に突き出す……おいおいマジか。


「こっちには(正式な)おにーさんがいるんですよ!! ここでおにーさんに勝てる人は誰もいません! おにーさんが後ろ盾についている私にそんなこと言える余裕あるんですかぁ? せんぱぁい!!」


 煽る、僕を武器にした途端、急に煽り出す。


 けどその煽りは的確で二人はオーラは弱めずとも、一歩引き下がっている状態だ。アリスとは一戦しかしていないけど、この二人とは何度か戦っている。


 僕らの間にある実力差は僕らがよく知っている。クラリアとサクラ二人がかりでも部が悪いと踏んでいるのだろう。踏み込めない状況だ。


「ふふん、おにーさんにかかればイチコロなんですよイチコロっ! これはもう私に従うしかないですね! ね、おにーさん?」


「そこで僕に同意求めるとか君の精神構造すごいねほんと。……いやまあ、ここで君を見捨てるとかはできないんだけど立場的に」


 アリスは自分の立場と僕の関係性をよく理解している。


 クラリアやサクラがやれ恋人だの、やれ弟子だの言ってるけどそれはあくまで自称。しかしアリスは違う。


 彼女はれっきとした義妹。家族関係にある以上、僕はアリスの味方をしなくてはならない。いいように扱われている感はあるけど、まあ仕方ないか。


「ふふっ、それにぃ、私の味方をしてくれたらおにーさんにはイイコトしてあげますよ。何をしてほしいですか? あんなことやこんなこと、いーこいーこだって!」


 アリスの言葉により歯を強く噛み締める二人。あの二人がそんなことを言ってきたこと一度もなかったな……。


 飴と鞭ではないけど、緩急の付け方は上手い。彼女は将来いい魔法使いになるだろう……緩急ってなんの緩急だ?


「流石にこれはこちらが劣勢ですね。授業も近いですし引きましょうか」


「うーーーーん! 残念なのです! 今日こそは認めてもらえると思ったのにぃ……!」


「えへへへ、私のかんぜんしょーりですよかんぜんしょーり! どうですかおにーさん?」


 この状況、アリスが一人優位に立って、クラリアとサクラが下がった形になる。アリスのいう通り、アリスの完全勝利だろう。


 なんの勝負かは僕自身マジで何もわかっていないけど。


「では私たちはこれで今日こそランチデートを……!」


「では師匠私たちはこちらなので。あ、ちなみに私はいつでも空いていますので気が向いたらぜひきてほしいのです。例えばお昼とかに」


「は?」


「ふぅん?」


 クラリアとサクラは互いに火花を散らしながら特進科の教室へと向かう。その背中を見届けた後、アリスは満足そうに離れて。


「ではおにーさん、私もこれで。ふふっ、今日はもぎ取りましたよかんぜんしょーり」


「うんまあ、あまり彼女らを刺激すると部屋に入れないようにするよ」


「ふぇ!? なぜですか!?」


 逆にあれだけ彼女たちを煽って、僕からお咎めなしとでも思っていたのか……。


 背中で「どうしてなんですか〜〜!! 教えてくださいおにさーーーん!!」って叫ぶアリスを無視しつつ、僕は教室へと向かう。


 これで少しこりてほしい……いや、ないか。僕の平穏は遠のくばかりだ……泣きたくなってきた。

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