第5話 創造主と兎の交渉

 猫たちと人間と植物が共生する世界を夢見ながら、創造主パカラはそれが不可能であることを知り、自分で創り上げた青レンガの建物で埋め尽くされた猫の街にネットリーを派遣してすべてを破壊しつくそうとした。汚らしい粘液で猫狩り義勇軍たちの幾人かが白骨と化し、ポインセチアは枯れ、家々は瓦礫と化したが、雲の上の兎にはそんなことどうだって良いのだった。だがしかし、こうして、神とも香具師ともつかない自らを創造主と呼ぶパカラに天上で対面してみると、兎としては何か願いを叶えてほしいという私利私欲のことしか頭にないのであった。兎は創造主パカラに恐る恐る訊いた。わたしがなんか手伝えることあるでしょうか?と。創造主は岩のように押し黙っている。もしかしたら眠っているのではと思い、兎はパカラの雲の座に置いてある煙草を一本盗み、その場からケルビムの羽根に乗って下界の森に戻ろうとしたが、創造主パカラは兎に頼みごとがあると申し出た。雷が起きた。パカラは訥々とこんなことを喋った。


 まず猫の街をわたしは創ったが、そのあとにわたしは川に壺を流し、その中には「人間の素」を容れておいたが、それ以降戦争が絶えなくなってしまった。もっと困ったことは、この失敗したユートピアをネットリーで破壊しつくそうとしたが、まだあの猫と人間のあいのこの「猫母娘」が呪術とも憎悪ともつかぬ感情で闘いの火を絶やすことなく悪霊を味方にしている。おそらくtmgjadwpdだったかtagwdxpoだったかそんな名前の父親を猫母娘が倒せば、彼女らの目的は叶うのだろうが、狂った悪の父親は、実は既にもう死んでいて、猫たちの朧な現像の中にしか猫狩り義勇軍のリーダーは存在しないのだ。兎よ、お前が調停点を見つけよ、お前がやるのだ、この私利私欲のことしか考えていない兎がやるのだ、わたしから盗んだ煙草をpgadwtjmだったかという名前の父親の呪われた墓に一本、火を点けて供えるのだ、土が動いたら逃げろ、逃げたらどこかで霊薬を調合している猫母娘に戦争は終わったと伝えろ!そうしたら兎よ、お前には大量の肉を与える!


 兎はあくびをしながら言った。ただの肉だけなんですかぁ?信じられないほど可愛い「兎の女」とかは?


 何がほしいのだ、と創造主パカラが言う。


 兎は、わたしが創造主になりたいですけどね、と言った。いまはとくにほしいものとかないんで、取りあえずパカラさんみたいな座に着けたら、ほしいものを考えます。創造主パカラは岩のように押し黙ってしまった。


 と、こんな内容の夢を見た兎は、小川の横の岩の上で眠っていた、不穏な雲がたなびいていた。兎の毛だらけのもふもふした手には煙草が一本握られていた。

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猫母娘と創造主 @ogaprofane77

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