第4話 見えない人感じる人
今日は良く晴れて雲一つない青空。日差しがとても心地よい。
道路脇にはまだ雪が残っていて、太陽の光を受けてキラキラと光っていたが溶ける様子はなかった。
私は寒さを感じないけれど
きっとこんな日は、とても寒いのだろう。
私は、神社から出てみることにした。
神社の前の公道を歩き続けていたら、欄干を赤く塗装した橋が見えてきた。
赤い橋まで歩いて行き、流れる川を見下ろしてみた。
川幅はおよそ約8~10m位だろうか。水の量はヒザの高さぐらいまでしかなく、綺麗な水が穏やかに流れている。
所々、川底の石や草が見えている。
その川の土手沿いの狭い道には
川へ落ちないように柵が作られており、
道沿いには川の方へ競り出すように桜がたくさん植えられていた。
この道は、人の散歩用に作られているようで
舗装されている道幅は約2mほど。
段差がある場所にはスロープもあり、ベビーカーを押している人や足の悪い人でも歩きやすいように配慮されていた。
また、車が通ることが出来ないように所々に車止めが置かれ
散歩をする人達の安全を守っている。
きっと、春には多くの人が集まり、美しい景色を見ることができるのだろう。とても楽しみになった。
せっかくなので、この土手沿いの道を歩いてみることにした。
少し歩くと、前方に40代位の男の人が白い中型犬を連れて散歩をしている姿が見えた。
暖かそうなダウンジャケットを着て、リールを握っている手には革の手袋をはめていた。
このままだと、こんな狭い道幅だから、近くですれ違うことになる。
隠れようか?
いや、隠れる必要なんてないか…。
私はどんなふうに見えるのだろうか?
そんなことをあれこれと考えていたら、いつの間にか
男の人は近くまで来ていた。
すれ違う少し前に軽くおじきをして
『こんにちは!』
と挨拶をしてみたが、全く反応はない。
私のことは目に入っていない様子だ。
『まぁ、そうだとは思ってたけどね…。うーん。…それなら!』
少しイタズラ心が芽生えた。
タタタタ…と男の人の前まで走って戻ると、
少し体を右へ倒し、男の人のすぐ近くですれ違うようにして
もう一度話しかけた。
『こんにちは!』
それも、手を振りながら、
ニッコリと最高に可愛い笑顔で❤️
でも、男の人には何も見えず
何も聞こえていないようで
私に視線を向けることはなかった。
ところが…
白い犬は、ずっと私の動きを目で追っていた。
とても賢くてしっかりと躾られているのか、吠えたりはしなかったが
私と飼い主を代わる代わる見ていた。
その様子に気がついた男の人は
「ん?どした?」
と愛犬に穏やかな声で問いかけた。
白い犬はそんな飼い主を見つめて、嬉しそうに尻尾を振っていた。
私は追いかけるのをやめて、立ち止まると、何度も目を合わせる男の人と白い犬の様子をしばらく眺めていた。
白い犬は時々振り返って
私の方を見ていたけれど
止まることなく
飼い主の歩みに合わせて楽しそうに散歩を続けていた。
男の人は愛犬に優しそうな笑顔を向けて、時々何かを話しかけていた。
橋を越えた先の道を曲がり
姿が見えなくなるまで
私はずっと見ていた。
ほんわかと穏やかな時の流れを感じて、ほっこりとした気分になった。
『さて…帰るとするかな。』
行くあてもなく、彷徨うより
あの居心地の良さそうな神社に
居候させてもらおうと思った。
今まで歩いてきた道のりを思い出し、頭の中にあの神社の鳥居が思い浮かんだ。
まぁ、赤い橋で土手沿いの道を曲がるまでは真っ直ぐ歩いてきたのだから、
道を間違うことはないだろう。
どのくらいの時間歩き続けていたのだろうか?
戻る頃には夕方になっているのかなぁ?
そう思った瞬間、目の前の景色に一瞬ノイズが走ったように見えた。
『あれ!?…え???
えええええ~!!!』
いつの間にか、見覚えのある神社の鳥居が目の前に見えた。
『これって、あの…有名な伝説のゲームで、スッゴく便利な○ーラってやつ???』
自分の記憶は無いくせに、自分のことじゃなければ覚えているのね?
と思って少し苦笑い。
鳥居の前でお辞儀をしてから
境内に入っていった。
『またお邪魔しまーす。』
中に入ると、神官の装束を着た60代位の男性の神主が長柄のほうきを持って、一人で境内の掃除をしていた。
どうせ私のことは見えないのだけれど、お掃除の邪魔をしないように
境内の隅で膝を抱えるように座った。
他にすることもなかったので
神官のおじさんが丁寧に掃除をする様子をずっと眺めていた。
やがて私の近くの地面をホウキで掃こうとしているので
『よっこらせ…。』
と立ち上がり
場所を移動しようとした。
ふと、神主の手が止まった。
辺りを見回すと、何事もなかったように再び掃除を続けた。
『私が見えるのかな?神職の人は神様の加護で見えるとか??』
少しだけ近づいてみた。
すると、また神主の手が止まった。
私の居る場所付近の空間を見まわし、様子を伺っているようだった。少し警戒している様子だ。
もしかしたら私のことが分かるのね?
幽霊か透明人間がウロウロしていたらちょっと怖いよね?
そっか…。邪魔をしてはいけないから、もうここには居られないな~。
『あ~あ。私はどこに行けばいいんだろう。』
こんな独り言を言いながら、自分が思う以上に残念に感じていることに気がついた。
『しょうがないか…。』
とつぶやいた。
その時…
『ここに居ても良い。』
頭の中に響くような不思議な声が聞こえた。
もしかしたら声というより、イメージや電波のような
目に見えないメッセージに近いものだったのかもしれない。
その時、神主さんが定まらない視線を私の周辺に向けながらクチを開いた。
「どなた様かは存じませんが、そこにいらっしゃるのはわかります。でも、私はあなた様を見ることができません。お声を聞くこともできません。
ですが、あなた様から邪悪な気配を感じません。また、今のご神託により、あなた様がここにいても良い。とのメッセージを頂きました。
どうぞ心ゆくまでお過ごしください。」
そういって私の方へ
深くおじきをしてくれた。
良かった…。ここに居てもいいんだな。
彷徨い続けなくてもいいんだと思ったら
少しホッとした。
この人、さっきの声が聞こえていたのね。
あれは、ここの神様だったのか。
どんな神様かわからないけれど
『居ても良い』
って言ってくれたし
なんとなく私を感じることができるここの神官からも承認されたので
これで遠慮なく居候できる。
そう思ったらとても安心した。
次話へ続く…
新米神様 川原 優 @ko-ni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。新米神様の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます