第3話 食べることは幸せなこと
私は神社から石段を下り、目の前の公道へ出た。
たまに車が通るけれど人は歩いていなかった。でももし、人が来たらどうしよう。こんな半透明な人間が歩いていたら、きっと怖いだろうな。
『半透明な人間か…。』
私は立ち止まり、空を見上げた。抜けるような青空で雲は無かった。
『こんな日は放射冷却で、きっとさぞかし寒いんだろうなぁ…。』
どーでもいいことをクチ走って
気分転換をしようとしたが
やはり考えてしまう。
透明人間になった人とは
どういうことなのか…。
私は "幽霊" か "あやかし" のようなものに
なってしまったのだろうか。
『私の姿は、他の人からはどんなふうに見えちゃうのかなぁ…?』
ちょっと楽しみでもあり
とても不安でもあった。
『うーん…。
でもでもでも…やっぱり…。』
右手の人差し指と親指で唇を触りながら
左手は右肘を掴んで
難しい顔をしながら歩いていた。
さながら【歩く考える人ポーズ】みたいだ。
目覚めてから、なるべく考えないようにしていたけれど
こんな半透明人間の状態になるなんて
私は何かの理由で寿命が尽きてしまったのだろうか。
いったい、なんでこんなことになってしまったのだろうか。
私はどんな人生を歩んでいたのだろうか。
一度考え始めるとそんな答えの出ない思考が頭の中をぐるぐると駆け回って
思考のループは止まらなかった。
悲しい気持ちには
なっていないけれど
戸惑い、混乱し、
今はどうしたら良いのか?
という解決法や対処法が
何も思い浮かばなかった。
相変わらず難しい顔をしながら
ひたすら道なりに道路を歩き続けた。
そのうち、考え続けることに飽きて、ふと我にかえった。
どのくらい歩いていたのだろうか…。
『さて…どこへいこうかな。』
と声に出してみたものの、ここがどこなのかも良く分からないし、行くあてもない。
『さ~て、どうしたものか…。』
なんとなく、そのまま道なりに歩き続けた。
そういえば、かなりの距離を歩いたはずなのに
息が上がっておらず
少しも疲れていない。
それに他にも気がついたことがある。
お腹が減らないし
喉も渇かない。
それに、欲しいものがない。
気のせいかもしれないけれど、
多分 “物質的な欲” というものが無い気がする。
興味、関心、知的好奇心、探索欲求はあるけれど。
『うーん、それも欲の仲間かな?』
自分の思考に対して
つい独り言が出てしまう。
確かに、物に対しての欲望が何もなかった。
可愛い服を着たら嬉しいけれど、そうでなくても別に構わない。
物理的なことは
まぁ…どっちでもいいかな…。
となってしまう。
いつの間にか太陽は真上まで来てきっとお昼時なのだろう。
時より美味しそうな食事の匂いがする。
けれど、美味しそうと思っても
食べたいと思う事はなく
お腹が鳴ってしまうこともなかった。
『そうか。もしかしたら…。』
【お腹がすく】
↓
【美味しいものを食べる】
↓
【美味しいと感じて笑顔になる】
↓
【食べる人もそれを見ている人も幸せな気持ちになる】
という図式を頭の中に描き、
それを指差しながら
『ってことよね…。』
ちょっと満悦気味の顔で、また独り言…。
人は何かを失ってみて
できなくなって
初めて気がつくこともある。
人の欲望って、幸せへの道しるべなのかもしれない。
と思った。
食べることができるって幸せなんだな。
『だから食べられるうちに美味しいものを沢山食べとくといいよ。あ…、もちろん食べ過ぎには注意だけどね❤️』
世の中の全ての人へ、伝えたいと思った。
次話へ続く…
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