第2話 私が居候する神社
ある日、私は神様になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は社(やしろ)から外へ出てみた。
『うふふ😊壁を通り抜けるなんて、ドキドキしたけれど
できちゃったぁ~🎵』
辺りを見回してみた。
どうやら小さな山の上にある
こじんまりとした神社だった。
境内は白っぽい石が敷き詰められていて、綺麗に掃除してある。
隅々まできちんと手入れがされているようだ。
管理をしている宮司さんは、真面目で信仰の厚い人なのだろう。ここをとても大切にしているように感じた。
神社の参道沿いには桜が植えられ
社の周りには紅葉、いちょうの木などの木々がほどよく上品に配置されていた。
社の裏手にはひときわ太く大きな木に、注連縄(しめなわ)がかけられていた。
立派な御神木。
堂々とそびえ立ち、見上げる人間を圧倒する。
手水の周りには、低い垣根で仕切られた先に、アジサイやツツジや季節の草花が色々植えられていた。
管理社屋には、おみくじが置かれていて、今は人が居ないけれど絵馬や御守りが買えるようだ。
おみくじ掛けや絵馬所の近くの玉垣沿いにはコスモスやスイセン、ヒガンバナなども植えられていた。
『なかなか良い感じ。
きっとどの季節に訪れても
草木や花が綺麗で、訪れる人の心を和ませるように考えてあるみたい。』
おもてなしの心意気に感心しながら、軽い足取りで神社をひとまわりした。
『ところでここは、何という神社なのかしら?
どなたを祀っているのかなぁ?』
神社内にある看板や表札のようなものを探して見てみたが
モヤがかかっているように、どうしてもボヤけて読むことができなかった。
『まぁいっか~。お邪魔しております。』
深くおじきをした。
腰まである長い黒髪が
さらりと前に垂れた。
『あれ…?私の髪は、風が吹いても平気なのね。寝癖も付いてないみたい。』
草花を揺らす風が時より強く吹いてきても、私の髪は微動だにもせず
私が頭を動かす時だけ、さらさらと揺れた。
私は髪を一握り掴むと、毛先を広げて見た。
『うーん、やっぱり髪も透けてるんだね。真っ直ぐでサラサラで綺麗な黒髪だなぁ。服とサンダルが白いから、この髪は白とか、薄いピンクにしたらどんな感じになるのかなぁ。』
透明人間になっちゃったから
髪を染めることもできなくなった。想像するだけしかできない。
空を見上げながら、
リカちゃん人形をイメージして
私が着ている服装と髪型にした。そして髪の毛の色だけを桜色にしてみた。
『これだと、ちょっとコスプレみたいかなぁ?まぁ、黒でもいいかな。そんなに嫌いじゃないし。』
掴んでいた髪の毛に視線を戻すと、私の髪は薄いさくら色になっていた。
『え!?あれ?まさか…。この色…。もしかして、私のイメージで自由自在に変えられるの?
これはすごい!美容院いらずよね!』
とても驚いて、少し興奮して、軽く叫んでいたかもしれない。
その日の気分でショートヘアーにしたり、ロングにするために何年も待たなくていい。憧れの髪型を思い通りに出来ちゃうなんて素敵だ。
美容院に行っても、なかなか思い通りにいかないし。
それに、こんな色にする勇気なんてなかったと思う。
と考えながらも、私が以前にどんな髪型をしていたのかは
思い出せなかった。
『それなら、例えばアフロとかも
簡単に出来ちゃうのか…。』
ハッ…!やばい!!
これは、迂闊に変な想像をしたらいけない。
『もし、半透明でアフロの人が歩いているのをみたら、
目立ちすぎるし、ビックリされちゃうし、絶対変だもの!
ダメダメ!気を付けよう…。』
ポン…。もわもわ…。
ダメだと思えば思うほど
イメージが勝手に浮かんできてしまうものである。
あー。やってしまった…。
先ほどサラサラの綺麗な髪はどこへやら。
おそるおそる頭に手を伸ばしてみると、
私の頭の上にはモシャモシャで
こんもりとしたマリモのような髪が乗っかっているようだ。
『うわー。どうなっちゃったの?こ、これは恥ずかしい💦でも…
あはははっ!笑える!!鏡で見てみたいっ。』
ひとしきり笑ってから
どんな髪型にしようかとイメージし直した。
やっぱり、先ほどまでの長い髪がいい感じだったので
それを少しアレンジしてみることにした。
髪の色は薄い水色。
サイドの髪を一掴み分くらいまとめてリボンで結んだ。
『こんな感じかしら?神社に居候してるから、巫女っぽくしてみたかったけど…。可愛いかな?上手くできたかな?』
今度は鏡の前で、色々な髪型を変えてみたいと思った。
さてさて。
神社内を一通りまわったので
鳥居から下の道路へ降りる石段の手すりを掴み、そこから見える景色を見渡してみた。
周りに大きな山は無い。
辺りは住宅や田畑があり
素朴な町並みが平地に広がっていた。
神社の石段を下ると、公道に出られるようだ。近くにはトトロが待っていそうなバス停が見えた。
その道路を時々車が通り抜けていく。
この閑静で平地の田園住宅地に
この小山だけが、ポコンと不自然に盛り上っている。
もしかしたら、山ではなくて
古墳か昔の偉い人のお墓なのかもしれない。
神社の石段を下りて、道路に出てみると、人通りはない。
参拝者用の駐車場があり
隅には雪が少し残っている。
いつ降った雪なのだろうか。
朝日を浴びてキラキラと煌めいていた。
『そうかぁ、冬なのね。そういえば、こんな薄着なのに全然寒くなーい!不思議~。』
相変わらず、私はどこの誰なのか
名前も何も思い出せないけれど
不安を感じるよりも
不思議なことや面白いことばかりで、興味や好奇心の方が尽きなかった。
次話へ続く…
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