新米神様
川原 優
第1話 私は神様になった
ある日、私は神様になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝、目が覚めると私は見たことがない場所に立っていた。
でも、なぜか知っているような不思議な感覚だった。
清々しい森林や土の香り。
草木が風に揺れて擦れ合う音がする。
お香のいい香りがまざり、
何とも言えないほどに心地よかった。
『あ~。いい空気❤️』
空気が軽い、空気がきれい。
思いっきり深呼吸したくなった。
軽く伸びをしながら思いっきり
息を吸い込んでみた。
辺りを見回すと、
どうやらこじんまりとして
小綺麗なお社(やしろ)のようだ。
『ここはどこだろう?
どこかの神社なのかしら?』
人差し指を顎に当てて、
首を傾げながら
小さな声でつぶやいた。
『ん?…あれ?
えっと…私は誰?』
昨日までの記憶がなかった。
自分の名前もわからない。
私は、ふと、手のひらに視線を向けてみると手のひらの向こうの景色が透けて見えた。
『え?どういうこと?』
足も腕も身体も透けてお社の床材が見えていた。
そして、身体には白くてゆったりとしたローブのような着物を纏っていた。
すっぽりと被るように着ている。
『こんな服、持ってたっけ?』
袖口を掴みながら、両腕を左右に伸ばし
着ているローブを広げて良くみてみると
美しい花柄のレースがあしらわれていた。
それに、肩から袖口までリボンの編み込みになっていて
なかなか上品でオシャレだ。
足にはシンプルなデザインの
白いサンダルを履いていた。
かかとの高さは5cmくらい。
柔らかいクッションが敷かれているようで
履き心地が良かった。
足の甲を押さえるパーツ部分に白くて綺麗なお花が付いていた。
歩く度に、フワフワと揺れてとても可愛い。
だけど…
ローブもサンダルも
身に付けているのは分かるのに
重さを全く感じなかった。
『私は透明人間になっちゃったのかしら?
それなら、もう、何も触れないの?』
あわてて自分の身体や着ている服に手を伸ばしてみると
触ることかできた。
でも、体温を感じることはなかった。
冷たくもないし、温かくもない。
肌や布というような素材や物質がそこにある…
という印象がした。
恐る恐る、近くにあった柱にも手を伸ばして触ってみる。
木材の感触がした。
温かさや冷たさは感じなかったが
しっかりと掃除や手入れをされているようで
すべすべとした木材の感触だった。
物に触れるのだから、
扉を開けて外に出ることが出来そうだ。
扉に向かって歩き出した。
『おっと!』
足元に合った木箱に気がづかずに
踏んでしまった。
…と思ったら、
足は木箱の中にあった。
まるで木箱など置いてないかのように、
足は木箱を貫通していた。
『え?木箱には触ることが出来ないの?』
この木箱は何か特別なのかもしれない…と思って、人差し指の先でツンツンしてみたら、
木箱が少し動いた。
さっきは貫通していた足も
今度は貫通せずに木箱の上に乗せることができた。
そんなに大きな木箱ではないし、華奢な造りなのに
私が乗っても軋んだりしなかった。
そして、扉まで歩き
扉に手をかけ、開けようとしたが
外から鍵がかかっていて
開けることができなかった。
『開かないか…。どうしようかなぁ。』
人差し指を顎に当てて
首をかしげながら
今の状況や現象を考え直してみた。
『ん~。もしかしたら…私は。』
ふと浮かんだ仮説を検証するべく、
近くに置いてあった紙を筒状に折って立てた。
風が吹いたら倒れそうだった。
思いきってその紙の上に足を乗せてみた。
…私が乗っているのに
紙は少しも潰れていない。
『あー。やっぱりね…。』
やはり、そうか。
思った通りだった。
私には重さがないようだ。
そして、もう一つの仮説を
試してみることにした。
目をつぶって、その場でぐるぐると回ってみた。
どんなに回っても、目がまわる事はなかった。
どこに何が置いてあったのかは
ハッキリとは思い出せない。
何周もぐるぐると回ったので
向いている方角も分からなくなった。
『おし!』
そのまま、目を開けずに社の中を歩き回ったが
何にもぶつからなかった。
確か社の中には棚や蝋燭立てなど、色々な物が置いてあったはずなのに…。
もう少し歩き続けてから、
鼻先に木の香りがする所で目を開けてみた。
案の定、身体の1/3ほどが、
社の中にあった木製の棚にめり込んでいた。
めり込んだ棚から出て、改めて棚に手を伸ばしてみると棚に触ることができた。
棚がある。と意識して手を伸ばすと触ることができ、
中にめり込んでしまうことはない。
『ふむふむ。なるほどね。』
多分、その物質を意識しないと、物質に触ることができないのだろう。
そして、逆に意識しなければ、
物質を通り抜けてしまうようだ。
さっき社の扉を開けようとした時には、
外から鍵が掛かっていたので
外に出るには鍵を壊すか
誰かが開けるのを待つしかないと思っていたけれど
そんな心配は無用だと分かった。
私は目をつぶって、壁に向かって歩き出した。
この壁を通り抜けたら外だ。
あと一歩…。
ドン!?と壁にぶつかり、
壁を通り抜けることができなかった。
『あれれ?壁を見てなければ通り抜けると思ったのにな…。なんでだ?』
思いっきりぶつかったのに
どこも痛くない。
それに、多分、ドン!とぶつかった感触があったけれど
『ドン!』という音はしていなかった。
『うーん。だめか。壁があるって思っているからダメなのかなぁ。
それなら…。もう一回、試してみようかな。』
先ほど考えていた他の可能性を思い浮かべながら
自分の言葉を自分に言い聞かせるように、
独り言を言った。
もうひとつの可能性。
それは、物質を自分のイメージで定義すれば、触ったり通り抜けたりできる。
という仮説だった。
そうだったらいいなぁー❤️
便利かも?くらいに考えていた。
壁がある。
でも、あの木箱のように、この壁は通り抜けることができる。
とイメージしてみた。
そして壁に向かって真っ直ぐに歩き出した。
さっきまで壁だった場所は
通り抜ける時には
何もない空間のようにシルエットだけになっていた。
『何だか、コンピューターグラフィックみたいっ!面白いなぁ~。』
次話に続く。
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