星間鉄道警備隊〜 STELLAR GUARDIAN〜

鐵 幻華

プロローグ 星を目指したその先で

卒業式開始を告げる鐘の音が、低く、ゆっくりと講堂に響いた。


 それに呼応するように、天井の照明が徐々に落ちてゆく。

 薄暗くなった空間に、かすかなざわめきと、椅子を引く音が広がった。


 次の瞬間──講堂の天井一面に、星が浮かんだ

ドーム状の講堂には、薄く輝く星空ホログラムが映し出されていた。実際の天球──地球から見える空が、今の時刻に合わせて再現されている。演出としては地味な部類だが、伝統あるこのアカデミーでは「旅立ちは地球から」という精神が根付いているらしい。

天井を見上げたまま、俺──高槻 真は、制服の袖をぎゅっと握った。



あと何人だ。同期が次々と名前を呼ばれては壇上に上がり、星間鉄道の配属先を告げられていく。誰もが夢と希望に満ちた顔で、拍手と歓声に包まれながら席へ戻る。


「アンドロメダ鉄道管理局第1課!」

「地球=セレス貨物運行隊!」

「木星大気圏内シャトル連絡本部・管制班!」


誰もが、列車と関わる仕事に就いていく。車掌、乗務支援、運行オペレーター、貨物管制──夢を胸に、宇宙へ旅立つための配属通知だ。

 


そして、その時は来た。


 


「高槻 真──前へ」


名前を呼ばれた瞬間、息が止まりそうになった。どんな辞令が下るのか、胸の奥が騒ぐ。

──俺は、運転士になりたかった。

もちろん、すぐになれるものではない。最初は乗務助手や車掌から経験を積むのが一般的だ。それでも、「運転士コース」に進めるチャンスがある部署を狙って、これまで必死でやってきた。シミュレーター成績も、筆記も、実技も。

壇上へ上がると、巨大なスクリーンに自分の顔と名前が映った。観客席の両親が立ち上がって手を振っているのが、目の端に映る。


司会官の口がゆっくりと開く。




「高槻 真、第30期卒業生──星間鉄道警察隊、第九警備課に配属」


 


……え?


 


拍手が一拍、遅れた。会場がざわつくほどではないが、たしかに空気が一変した。


警察隊──星間鉄道に関わる治安維持組織。事故対応、列車内の警備、武装列車への配属……。


ここから配属される者は少数で、基本的に志願者か、特殊適性を持つ者に限られている。俺は……志願してない。


胸が冷たくなる。見渡せば、同期の誰もが俺のほうを見ていた。


(……あれのせいか)


あの一件──卒業前、偶然乗っていた星間列車で起きた“何か”の異常。誰も動けずにいたなか、気づけば俺は勝手に動いていた。ほんの少し授業でかじった程度の知識しかなかったけど、それでも何かしなければと思った。やり方は不格好だったかもしれない。でも結果的にその対応が記録に残り、「適性あり」と判断されたらしい。


あれさえ、あれさえなければ──


俺は、あの時、車掌になるつもりだった。そこからステップアップして、いつか星の海を貫く運転士になる。家から列車を見上げていた頃の、あの夢を、ずっと抱いていたのに。


淡々と拍手が続く中、俺は無表情のまま、ゆっくりと礼をした。拍手の音が、遠く感じた。


星間鉄道の夢は、まだ遠い。

でも──諦めたわけじゃない。


「……了解しました」

 


俺の声は、きっと、震えていなかった。



星を駆けるための道は、きっとひとつじゃない。これは終着点じゃない。ここから始まる、俺だけの路線だ。



──こうして、高槻 真の軌道は、予定外のレールを走り出した。──

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