第2話コント自慢日本グランプリ

俺ら本マグロは、漫才だけでなく、コントもやるが、どちらもウケは悪い。しかし今度行われるコント自慢日本グランプリにも出場することをお互いに決めた。『クロダイ、予選の一回戦は一番ウケが良い「非常式」やるで』俺はクロダイにそう提案した。『あれは決勝戦まで温めといたほうがええで』『アホ、決勝戦まで行けるかわからんのに、置いておけるかいや、練習するで!』俺とクロダイは深夜の誰もいない公園に二人きりで、コントの練習を始めた。俺が教師役で、クロダイが生徒だ。

「音楽」仰げば尊しが流れる

本『あーおーげば、とーとし、わ〜が〜しの恩〜』

本『あー、もう卒業かー、三年間あっちゅーまやったなー、長いようで長かったな〜って長いんかい!』

本『あー、何故か我が師の恩て、和菓子の恩に聴こえるねんなあ、モナカの恩返しとかあるんかな? なんてな(笑)』

黒『おい、お前達、最後に教室に集合するように…』

本『え、集合て何やろ?なんかサプライズでもしてくれんのかな?』

ガラガラと引き戸を開けて教室に入る。

黒『おーい、お前たち、教科書しまえー』

本『教科書出してません、てか今日は卒業式です』

黒『………』

本『無視かい!』

黒『えー、それではこれから、3年B組、非常式を行います』

本『え?非常式?なんやろ?金八先生みたいなやつやるんかな?』

シクシクと泣き声の音を出す。

本『ええ?みんなもう泣いてるやん。まだクライマックスどころか、先生なんも言うてないし』

黒『まず、安藤! 先生、知ってます。お前が皆の給食費盗んでいたのを…』

本『嘘やん!マジで?てかなんで今言うの?』

黒『井上、先生見てました。お前が本屋で万引きして捕まっているのを…』

本『いやいや、なんで?なんでこの大事な卒業式にそういうこと言えるん?おかしくない?』

黒『江口、先生、知ってます。お前がコンビニのエロ本の袋とじをハサミで開けていたのを…』

本『いやいや、別に言わんでええやん!可哀想…』

黒『江口、今日からお前のあだ名はハサミ男です』

本『もう、卒業や!しかもハサミ男の使い方間違えてるし、あれは古典にして大傑作のミステリー作品やがな』

黒『尾崎! 先生知ってます。お前が盗んだバイクで走り出したのを』

本『いや、それ15の夜の歌詞やん!』

黒『暗い夜の帳の中へ〜へ〜えええ』

本『歌ってるやん、こぶしを利かせて』

黒『柏木! 先生知ってます、お前が女子のブルマを盗んでこっそり履いているのを』

本『ええ?お前、マジで?』

黒『駒田! 先生知ってます。お前が女子の水着を撮って、それを闇サイトの動画にアップしてたのを』

本『いや、アカンやつやん!止めろや』

黒『先生、しっかり見てました』

本『見てたんかい!同罪やがな』

黒『浜田! 先生見てました、お前が食堂のオバチャンに一目惚れして告白して撃沈するのを…』

本『いま、ここで言うことちゃうやん!浜田くん涙ぐんでるやん』

黒『先生、笑いながら見てました』

本『ひど!酷すぎや!めっちゃ笑ってるやん!』

黒『浜田、お前どんだけストライクゾーン広いの?』

本『いや、放っといてやれよ』

黒『先生、あんなババア駄目やわ』

本『いや、あんた立場上、ババア言うな』

黒『樋口! 先生知ってます。お前が0点のテストの答案を家に、持ち帰らず、机の中に隠してたのを』

本『いや、言うたるなよ』

黒『先生、いま持ってます』

本『なんでやねん!捨てろや!いや、めっちゃ笑ってるし』

本『てゆうか、次、俺やん!心当たりありすぎて、めっちゃ怖いねんけど』

黒『そして、本庄!』

本『はい!』

黒『本庄!』

本『はいい!』

黒『本庄ぉぉぉぉぉぉ!』

本『はいって言うてますやん』

黒『お前は本当にほんっとうに非常識な奴でした』

本『えええ』

黒『教師生活30年で、お前はベスト・オブ・非常識にノミネートされるほどに非常識な奴でありました』

本『怖い怖い怖い、やめて、やめてあげて』

黒『お前ほどに恥の多い人生を生きてきた奴を、先生、他に知りません』

本『怖い怖い怖い、人生でいま一番死にたいんですけど…』

黒『お前に捧ぐ、今年の漢字一文字は、ずばり「恥」です』

本『怖い怖い怖い やめてやめてやめてやめてやめてあげて めっちゃ消えたいねんけど』

黒『先生、見てました。放課後にお前が同じクラスの山野の縦笛をこっそり吹いているのを』

本『えええ』

黒『先生、こっそりと気配を消して見てました』

本『はず、めちゃくちゃ恥ずい』

黒『山野の縦笛を裏から表から分解までして舐め回していましたね。先生、知っています』

本『やめてーやめてあげてー』

黒『本庄、知っているか?山野は男の子なんだぞ?昨今、LGBTQなどで、あまりマイノリティな人を差別で侮辱する気はないが、山野はな、男の子なんだぞ?』

本『いや、もう、もういやや、こんなん繰り返さんといて、死にたい』

黒『それとな、あまり言いたくはないんだが、山野は決してイケメンではありません。山野はどっちかと言えばブサイクです』

本『めちゃくちゃ侮辱してるやん。山野くん泣いてるやん』

黒『しかも、多分、いや、間違いなく、日本の中でもトップクラスに入るほどのブサイクです』

本『言い過ぎや、なんかもう親の敵レベルやん』

黒『山野はどっちかと言うと魚類です。人ではありません。ワニ系の顔をしています』

本『ワニは爬虫類や!てかそんなんどうでもええわ。俺の山野くんを馬鹿にせんといて』

黒『しかも山野は勉強ができません、体育会系でもありません、何一つとして取り柄がありません』

本『もうそれ以上は言うのはやめてあげてー』

黒『先生知っています、山野のお父さんは、痴漢で捕まり、その後はタクシー強盗で、刑務所を行ったり来たりしてるのを…』

本『いや、山野くんの非常式になってるやん、もうええわ』

拍手喝采もなく、静まり返る公園で、俺とクロダイはネタの内容を振り返ることにした。『もうちょい尾崎豊のとこ、掘り下げてもよくない?』とクロダイが提案してきた。『常にブルージーンズを履いているとか、窓ガラス壊して回ったとか、シェリーシェリーとかばっかり言ってるとか、そんなんか?』『ただの悪口やん』『てかさあ、俺の出番のとき、めっちゃいい奴やった風にするのはどない?』『ああ、例えば横断歩道は手を上げて渡る。たとえ一円でも拾ったら交番に届ける。お年寄りには積極的に席を譲るとかそんなんか?』『そうそう、全然非常識ちゃうやん、むしろええ奴やんみたいな』『ありなやそれ』俺とクロダイはネタを作るのがデビュー当時のように面白く感じていた。

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