やめややめや

バンビ

第1話暑すぎる夏

2045年の夏は、これまでの歴史上の中で最も暑かった…らしい、よう知らんけど…最高気温45度が毎日のように更新されて、アスファルトからは湯気が出ていて、街を少し歩いただけで、熱中症になり、バタバタ人が倒れたりしていた。そんな中、俺らは、今日も、滑り台しかない雑草の伸びきったショボい公園で漫才の練習をしていた。さっきまでお互いに殴り合いしてたから、顔はパンパンに腫れ上がっていた。なんで殴り合いしてたかっちゅーと、相方の黒田 まさる通称クロダイのアパートで飼っていたハムスターが、エアコンが無いせいで、暑さで死んでしもうて、それを食うてしまうかと、俺(本庄 ただし)通称ポンチュウが、言ったことが始まりの始まりやった。なんせ、俺もクロダイも食べるもんに事欠く状態やさかい、歌やないけど、お腹と背中がくっつくぞーてなくらいに常に飢えてた。食うもんに事欠くくらいやさけ、お笑い学校の授業料など、未だに親戚に返せてないし、なんならほぼ絶縁状態やし、情けない話、長男やのに、親父の葬式にも呼ばれなかった。まあ大学在学中に、クロダイにお笑い芸人に誘われて、両親が反対するなか、勢いで四回生で辞めてしまった超親不孝者である。しゃあないっちゃあしゃあないわな。俺は不動産屋に内定決まってて、それ蹴ってお笑いの学校行くくらいやから、相当な自信があったんちゃうかな?今は知らんけどや。最終的には俺が自分で選んださかいに悔いはないけど、クロダイはクロダイで、俺の人生を潰したんやから責任は負うてほしいわな。なんもないなんて絶対的におかしい。人としてどやねん。元々は、学校の文化祭で、俺ら二人漫才して大ウケしたから、それに味占めて始めようと誘ってきたんはアイツやった。大学をもう少しで卒業出来る俺からしたら、どういう気?っちゅーのがあった。それなら何で高校卒業と同時に誘わんねんと思っていたら、奴も奴で、高校卒業のあと、就職でだいぶ苦労したらしい。紹介された冷蔵庫の製造会社そっこうで辞めて、そっから営業やら新聞配達やらで、点々としてて、挙げ句にニートのときに、俺のことを思い出して、電話かけてきたっちゅうわけや。つーか、お笑いの道って、クロダイにとっちゃあ逃げみたいなもんやし、辛いキツイ人生からの逃げや、それが今や逃げる以上にもっと酷い人生を迎える皮肉よ。もし、ドラえもんのタイムマシンがリアルにあって、戻れたら、こん時に戻っで、断ってこいやって、当時の俺に言う。間違いなく言う。120%言う。だって俺は未だに不動産屋に勤めていて、家族もいて、沖縄かどっか小さな南の島で、バカンスしてるシーンを夢想したりするもん。いつかそんな日がくることを想像するだけて、少し日々が楽しい。それくらいしないと頭がおかしくなる…もう俺も売れない芸人で、39歳のおっさんである。で、現在の手元には何も残っていない。バブルが弾けてだいぶ年数が経ち、いまは5%の富裕層、15%の高給所得者、残り80%のど貧民で、この国は成り立っている。ついにこの国は、終わりを迎えつつある。いや、むしろ終わってくれやと願う。この間のお笑いグランプリにしたかて、決勝に残った8組のうち、7組がAIである。お笑い界まで、ロボットに乗っ取られる皮肉。恥と言う以外に何もない。今や時代はAIであり、タクシードライバーとか、トラック運転手とか、塾の講師とか、全部が全部AIやドローンが引き受けている。人口減少社会の日本の中では、人類の立場は本当に居心地の悪いものになっといる。俺の実家は未だに大阪の北河内のМ市にあって、ごみごみした下町で、周囲に自家用車を持っている家庭などなく、移動は全て自転車やった。母親は、俺にはとりわけ厳しく躾けた。一日に塾も含めて八時間以上は軽く勉強した。いい大学、いい会社、いい生活、いい人生をとにかく強調し、ノイローゼになって、ぶっ倒れるほどに勉強させられたが、今は売れない芸人という皮肉。母親はとにかく、クロダイの奴を憎んでいる。お笑い芸人を辞めない限りはウチの敷居をまたぐな、連絡もしてくるなと言うてきた。お笑い学校の授業料は、親戚の伯父さんに借りた。情けない話やけど、そのお金も一銭も返せてないし、むしろクロダイと二人で、サボりまくっていた。その要因が、お笑い学校の講師に、「きみら、ボケとツッコミ代わったほうがええで」と言われて、律儀に代わってからだ。俺とクロダイのコンビである『本マグロ』は、元々、俺がボケて、クロダイがツッコミで漫才をしていて、学生時代も、それがバカ受けして、クロダイが勢いづき、大学ノート山程のネタ帳を作り、俺を誘ってきたが、お笑い学校でネタを披露した時に、配役を代えろと言われてから、クロダイはネタを作らなくなり、勢いも萎んだ。なら断って元に戻したらええやんけと言いたいとこやけど、勢いの無くなった歯車は、再び活気を取り戻すことなく、そのままズルズルとお笑い学校を中退しても、売れない芸人を二人して続けていた。もうこの一年を最後の最後の最後の最後にしようと決めていた。本気の本気の本気の本気の本気の本気で、お笑いグランプリに挑む。AIなんかにぜっっっったいに負けない。不退転の決意で挑む。一度きりの人生をアホ楽しくやったるんや!クロダイと共に!

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