第9話欠落と崩壊の前触れ

 陽介ようすけが働いていた店を出ると、煌びやかとした高層ビル街を通り過ぎ、歩き始めて二時間、住宅街へたどり着く。

 空を見ると、日は沈みかけ、少し暗くなっていた。

 時間は大体6時か7時ぐらいだろうか、道行先、楽しそうに会話する親子が通り過ぎていく。

 子供はまだ幼稚園生ぐらいの背格好にスモッグを着て、お母さんと手を繋いで歩いていた。

 通り過ぎる際、子供が無邪気な笑みをこちらに向け、手を振っていた。

 突然のことで少しボーっとしてしまったが、すかさず手を振りかえした。

 おのれ、子供の笑みは絶大だ。

 他には、カラスの大量の鳴き声や家庭の談笑、その宅の美味しそうな匂い。

 昔の俺なら、多分羨ましいとかいいなぁって思うんだろうが、今じゃ何も感じなくなっていた。

 時々考えることがある。

 日々過ごしていくうちに、自分の中にある一般的な感情が欠落しているんじゃないかっと考えてしまう。

 最初に考えたのは小学校の5年だっただ。

 徐々に欠落していく感情や感覚に驚きと焦りを感じており、このままどうなつていくか、と考えていたが、ある時を境にまるで、シャボン玉が弾けるかのように、どうでもよくなっていた。

 今じゃ考えたりはあんまりしなくなった。

 考えた所で、止める手すらないのに、考えたって無駄だ……と結論がついた。

 そうこうとしているうちに我が家についていた。

 

「……? また、やられてる」

 

 そう呟くと、家の塀に数枚の紙が貼られていた。 

 それには、この家の苦情がびっしりに書かれていた。

 内容の一部は、腐敗臭がすごいだの匂いに関しての事だった。

 まぁ単なる嫌がらせかと思っていた。

 この張り紙は俺が小5の頃だろうか、多分、木上院きじょういんがやっているんだろうっと思っていた。

 彼の事だ、あの嫌われぐらいだし、やりかねないだろう。

 それに、さっきも言ったように俺は嗅覚がなくなっている為腐敗臭が漂っているかはわからないが、部屋は見る限り綺麗で、腐敗している物がないからだ。

 手際よく張り紙を剥がし、家の中に入ると、飯を食べ、風呂に入り、寝る支度をする。

 そのまま俺は明日の登校とあの二人に会う為、早めに眠りにつく。

 

 次の朝、目を覚す。

 起きて早々、アラームの音が聞こえず、早い内に起きれた事に心の中で少しガッツポーズをし、重たい体を起こすと、視力が戻っているか、目を見開くと、少し戻ってはいるが、ボヤけており、片方だけ視力が良く、片方はぼやけているせいか、気分が悪くなっていた。

 フラフラっと、立ち上がると、珍しく陽介達より早く待ち合わせ場所に向かう為、壁伝いでいつも通りに洗顔、歯磨き、着替えをし、外へ出る。

 外はまだうっすら暗く、霧が出ていた。

 あれ? ちょっとまだ暗くなっているな……と心の中で呟き、携帯を取り出そうとポケットに手を忍ばせる。


「……あれ、ない……あ」

 

 寝ぼけていたせいか、携帯を昨日修理に出していた事をすっかり忘れていた。

 いかんいかん、顔を洗ったのに、まだ寝ぼけているのか……。

 頬をつねると、いつものコンビニに向かっていく。

 コンビニに着くと、いつもの通り、栄養ゼリー一個を買っていく。

 味は特にしない物を選んだ。

 本当は別の味がする物もよかったが、味がしないのに買うのは勿体無いだろうっと思ったからだ。

 いつか、味がもどったら、フルーツ味を食べてみようと、ここで買う時、深く心に誓った。

 コンビニから出て、公園に向かっていくに連れ、何か胸騒ぎを感じていた。

 なんというか、こう警告されているかのような気がしていた。

 すぐ引き返せ、こっちに行ってはダメだっと言われているように感じる。

 だが、この先に陽介達がいる公園があり、ここを引き返す訳にはいかなかった為、その胸騒ぎを振り払い、進んでいく。

 公園に無事辿り着いた……だが。

 俺は後悔した。

 なぜ、あの時、進まず、引き返しておかなかったのか、なぜ、進んてせしまおうと思ってしまったのか。

 進まなかったら、俺の何かが壊れる事はなかったのに。

 俺の目の前には人気のない公園のベンチに陽介と一樹いつき、そして二人の目の前には、木上院とその彼女率いる陽キャ軍団だった

 

 




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死にたい僕の前に現れた彼女は僕を飼う 狂歌 @kyouka00

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