第34話 虹の彼方に
空から注ぎ込まれた虹の絵の具は、彼らを容赦なく色の中へと飲み込み、彼らを閉じ込める。
「なんだこれは!何も見えへん!」
「こわいぃいい!」
「誰だ、わいを殴ったんわ!?」
叫ぶ閉じ込められた人たちの声を聞きながら、魔法が効いているのを感じる。
そして、ある程度注がれた後、私の髪から絵の具がぷつりと分かれたのを感じた。
軽くなった頭に、ああ無惨な散切り頭になってるだろうなと予想がつく。魔法が使える武装魔女の髪には、自分の魔法を使うための力が詰まっている。
基本は制約呪文とスケッチブック等の道具で繊細なコントロールをしているため、この髪の毛の力を使うことはない。
しかし、今回のように開放呪文を唱えることで、髪に溜めた力を使う事もできる。でも、その力を充電するには時間がかかる。本当に一撃必殺技、代償にされた髪は白くなり、見るも無惨なことになる。また、私の場合は服を魔法で作っていたとしたら、服も消えてしまう。
とにかく、それよりも、今は夕雅様を助けなければ。虹色に溺れ、混乱する人たちの頭上を猛スピードで飛んでいく。
極彩色の中、運命は私達に微笑んだ。
なんと夕雅様が、上へ逃れるように空高く飛び上がったのだ。
「乗って!」
叫びながら手を伸ばす私。夕雅様も理解したのか手を伸ばす。まさに一瞬の世界、それでも私達はこのチャンスを逃さなかった。
掴んだ腕を利用し、反動で私の後ろに乗せる。しっかりと背後から前へと抱きつく腕。私は全速力で雨神神社の方へと向かう。
「テュベルーズ殿、逆です! ここから右に曲がってください!」
「右!? ごめんなさい!!」
方向転換し、空の上を走っていると道には沢山のからくりたちがいるのが見える。どうやら、私達を待っているのだろう。
本来ならばあそこを通るべきだが、今はそうも言ってられない。
「あの人たちは一体、何だったのでしょう」
「多分、私の祖父がこの結婚に反対してるので、妨害でしょう。末娘だった母親が他国の男の下へ逃げてから、私や父を毛嫌いしてますので。言わば八つ当たりです」
「大変なのですね」
「いえ、まさかここまでするとは思えず。巻き込んでしまって、申し訳ないです」
「気にしないでください」
どうやら、まだまだ複雑な家庭事情があるようだ。私も単純な家族構成ではないため、夕雅様の気苦労もわかる。家族というものは、単純に見えて、難しいものだ。
「あ、あそこです。ただ、雨神神社は必ず階段を登らないといけません」
夕雅様が示した場所には、見たことのある白い鳥居と石畳の階段が見えた。私はホウキを上手く旋回し、その階段の前へと降りていく。
何も知らないだろうからくりたちは、私達の姿を捉えたのだろう。大きな声援とちりめん紙吹雪を撒き始める。
「天からの嫁入りだぁ!」
「すごい、嫁御様が若様を連れてる!」
「降りてくるぞお!」
声を張り上げる中、良く見れば、階段前にはお爺さんからくりの横に何か大きな籠があるのが見える。
「おまたせしましたぁ〜!」
私は苦手な着地をどうにか成功し、ホウキから二人共さっさと降りる。既にグチャグチャに着崩れした白無垢ではあるが、ここまで来たら階段を登るだけ。けど、その前にと夕雅様に促されるように並び立つ。背筋を伸ばし堂々と、精霊とからくり達を見た。
夕雅様が皆に向かって口を開く。
「私、鴻夕雅とテュベルーズはこれより雨神様の下へと挨拶に行ってまいります。まだまだ未熟な私達を、何卒よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
頭を下げ、そして、階段へと向き直り、一段目に足を掛けたその時だった。
「させるかああああ!」
誰かが飛び掛かってきた。そして、勢いのまま私は地面に叩きつけられた。
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