第28話 赤身魚は美味しい
「ご飯美味しいですわぁ」
「本当に美味しいです。それにしても、私達二人で夜ご飯を食べ忘れるとは」
少しボロボロになった私達二人は、用意された朝ご飯を食べながら、ぼうっと朝日を浴びている。
寝不足は老化によくない。昨日までなかったはずの顔に怪しい小さな出来物があるのを、鏡で見つけてしまった。
他にも全体的なくすみと目の下のクマは、一目でわかるくらい出ている。
薬草あるかな、あるなら貰って顔に塗りたくらなきゃ。
ちらりと夕雅様を見ると、少し疲れているが、滑らかな白い肌には何も起きていない。これが若さか。若さなのか。
「すみません、若様と奥方様。私達御飯食べないからつい忘れちゃいました」
「いっぱい食べてくださいまし〜!」
「しんじゃやぁ!!」
ほとんどの精霊たちはどうやらご飯を食べないらしく、夕雅様と私くらいしか必要としてない。そのため、昨日私達二人がご飯を食べてないことに気づかなかったようだ。
私達二人の体の周りを、泣きながら飛び回る精霊たち。一食抜いたくらいなら死にはしないよと、何度も言ったがずっとこの状態だ。
ちなみに茜様は、朝迎えに来た大きな青鬼の顔を着けた謎の馬車のようなものに乗って、お家へと帰っていった。
ほぼ眠りこけていた彼女を乗せると、「お嬢がここまで疲れてるの初めてですわ」と鬼の顔が言っていた。ちなみに、彼の名前は
彼の黄色の目から放たれる眩しい光は、朝の光に負けないほどの強さだった。
「まだ、婚姻お披露目までには時間がありますし、本日はゆっくりしましょう」
「そうですわね」
本来なら何処か行こうと思っていたそうだが、二人共万全ではないため、私達は軽いご飯を食べた後、それぞれの部屋に向かう。
そして、もちろんの如く、なんとか湯浴みをして、眠りについた。
次に起きたら、既に夕ご飯の時間。
夕ご飯は見たことのない赤い魚。しっかりと焼かれ、なんともいい匂いがしている。そして、いつの間にか用意されていたフォークとナイフを使い頂くと、そのふっくらとした身の深い味わいに頬がとろけそうだった。
また、付け合わせのジンジャーピクルスも美味しく、歯応えもよく、口の中がさっぱりとする。
そして、今日のスープは味噌汁ではなく、透明な色。お湯かと思いびっくりしたが口に入れれば、しっかりとした味と塩味が身体に染み渡っていく。
また、中には色がついた玉が浮かんでおり、口に入れた時のふちゃっという感触は素晴らしいもの。不思議な香草もアクセントが効いている。
気づけば、ぺろりと平らげてしまった。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
食べ終わり、挨拶を済ます。からくり達と精霊たちは片付けを始め、私はぼうっとその光景を眺めていた。精霊たちがきゃいきゃい話しながら飛び回る姿は、なんとも愛らしい。小さき者は可愛いなぁなんて思っていると、突然横から声を掛けられる。
「テュベルーズ殿、この後、少しお時間よろしいですか?」
振り返った先には、真剣な顔をした夕雅様がいた。
声を掛けられた後、夕雅様に連れられてやってきたのは、屋敷内にある庭園がよく見える部屋。月夜に照らされた池が、なんとも美しい光景だ。
縁側に腰を掛ける私と、正座している夕雅様。私達の間には、お茶が入った器と薄茶の豆。先程からくり人形が、せっせと持ってきてくれたものだった。
私はお茶を飲みながら、月を眺める。私が暮らしていた魔女の集落では、霧が少し晴れた時だけ月が見えた。
「月が綺麗ですわね」
私は月から夕雅様へと視線を動かす。視線の先にいた夕雅様は、なんだか気まずそうに私を見ていた。一体どうしたのだろうかと見ていると、夕雅様が意を決したのか、ゆっくりと口を開いた。
「……実は、私はテュベルーズ殿に謝りたい事が、あるのです」
「謝ることですか?」
「はい、まず、茜のことです」
「茜様のこと?」
謝られることはあっただろうか、私の首が少し横に傾く。たしかにいきなりではあったが、特に意地悪するわけでも無かった。
「彼女は母方の従姉妹でして。見ての通り、あまり仲は良くないのです。私のことを嫌っているのは分かっていたのですが、テュベルーズ殿を巻き込むとは思わなく。申し訳ありません」
「従姉妹の方だったのですね。いえ、寧ろとても楽しくて、感謝していますわ」
どうやら、茜様は夕雅様の従姉妹だったようで、それならばあの近さや、仲の悪さも納得ができる。ただ、私的に白無垢のデザインは、とても楽しい時間だったので、感謝しているくらいだ。
「そう言ってもらえると胸が軽くなります。テュベルーズ殿は本当にお優しいです。そう、白無垢の服飾画を見ました。とても素敵でした」
「そう言っていただけますと、嬉しいですわ」
褒められると嬉しい。今まで様々なドレスを頭の中でデザインしてきたが、それを披露する場は無かった。魔女たちにとって、画一的な服を機能的に改良することが重要なため、見た目のデザインは二の次のことが多いのだ。
鼻歌でも歌えそうな位にテンションが上がっている私とは対象的に、今もなお表情を強張らせている夕雅様。
「そして、もう一つ謝らなければならないことがあるのです」
どうやら、まだ彼には私に対して謝ることがあるようだった。
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