第27話 愛してるキミの色

 あれから、どれくらい経っただろうか。


「この白と、この白、どちらがいいと思いますか」

「どっちも変わらんわ!」

 二枚の紙、ほとんど大差のない紫と灰色みがある白。その差は僅かな青み。


「うーん、やはり青みが多めのが瞳が綺麗に見えますが、こっちのがあたたかみのある印象が」

「ああもう、ええ。青みが多い方でええわ!」


 疲れ果てた表情の茜に対して、色やっと決まって嬉しい私は、その紙を茜様に手渡しする。

「茜様の白でございますよ。やはり、瞳が綺麗に見えるほうがいいですものね!」

「さよか」

茜白あかねしろと名付けてはいかがでしょうか!」

「いや、ええわ」


 良い提案だと思ったのだけどと思いつつ、私は茜様に渡したのと同じ色の紙をお鷹に渡した。このまま糸を染めるらしい。

 もう終わったとばかりに目を瞑って体をぐうっと伸ばす茜様。しかし、お鳶がまるで狙ったように分厚い束を私に渡した。私はその束を見て、更に目を輝くのがわかる。


「さあ、次は柄、どれにいたしましょうか!」

「まだあるんかあああい!」

 白無垢用の柄の見本帳を突き出した私に、茜様の絶望に近い悲鳴が響き渡った。



 また随分と時間が経ち、柄の種類や大きさも決まった。お鷹には、追加で決まった事を記した紙を渡す。長い時間拘束したせいか、茜様はかなりぐったりとしていたが、まだ一つ決めていないものがある。


「小物の色はどうします?」

「はあ、まだあるんかい。もう堪忍してや」

「これで最後ですわ。お鳶さんが持ってきたガラスビーズから選んでくださいな」

 お鳶は小さな箱を茜様の前に置く。その中には、色とりどり且つ柄も様々なガラスビーズが入っていた。艷やかに光を帯びたガラスは、傍から見てる私も心を奪われるものだ。


「綺麗なとんぼ玉や」


 それは茜様も同じ気持ちだったようだ。


「こういう結婚の小物は、愛してる人のことを思い浮かべて選ぶといいですわ」

「あ、愛してるやと!?」

 茜様の赤い肌が何だか更に赤く染まる。そもそも白無垢を作りに来たというのは、彼女には結婚したい相手がいるのだろう。


「ささ、選んでくださいな」

「うう……あんたが決めたらええ」

「駄目です、ここは茜様が選んでください」

 私に投げて逃げようとする茜様に、ずずいと箱を近づける。彼女は戸惑いながら視線を彷徨わした後、中黄鮮やかな黄の硝子玉を指さした。


「その黄色でええわ」

「ありがとうございます。小物はこの色で統一しますね」


 こうして、私は茜様の白無垢を選び終わる。久々に外を見ると、既に夜更けどころか、うっすらとまた陽が昇り始めていた。


「あら、夜ご飯食べ忘れましたわね」


 私が茜様にそう笑いかけるが、彼女はすでに床に崩れ落ちるように寝ていた。

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