第24話 白無垢って何?


 白無垢・・・とは、一体何のこと?

 睨み合う男女の横で、私は原因の意味がわからず一人首を傾げていた。しかも、夕雅様は私のしか選ばないと言っているし。

 頭の中でハテナを飛ばす私の横で、二人はというと。


「その角なし・・・に頼むのがおかしいのですよ」

「ええやん、減るものとちがうし。ちゃちゃっと選んでくれるだけでええねん」

「お帰り下さい」

「いやや、はよう作ってや」

「他の人に頼んでください」

「い、や、や。ここで、作らな、あかんの!」

「い、や、で、す! そもそも、作るとしてもこんな急に言われても、準備ができません!」

 段々と激しくなる口論。あと少し間違えたら殺し合いそうな雰囲気すら感じられる。その中で一番最初に動いたのは、彼女だった。


 バキッバキッバキバキッ

「もし、断ったら、ここで暴れたるさかい。屋敷全部この扇のようにしたるわ。覚悟しぃな」


 高そうな扇子を、そのまま手で握りつぶした。パラパラと木の破片は床に散らばり、彼女の力の強さを示している。

 また、彼女の表情も凄まじいもので、目の周りの血管を浮き出しつつ、目を大きく開いていた。雰囲気からして、かなり本気で脅してきているのが伝わる。それでも夕雅様は一歩も引くことはない。


「なんで、そこまでして」

「なんでもええやろ。うちはここで作らなあかんの」

「白無垢を、男に作らす意味を貴方は知ってるでしょう」

「それがなんや、着るもの選ぶだけやろう」

 一歩も引くことはなく睨み合う両者。ほぼ憎み合ってるような雰囲気であり、その雰囲気に甘さや艶やかさはない。一体どんな関係なのか、そして、白無垢は女が男に作らすものなのか。


「それに白無垢用の生地は、今切らしてます。無理です」

「ちゃちゃっと布織ればええやないの。ずーっと鶴の国はそれで稼いできたんやから。ああ、そう、来週までに欲しいんやけど」

「織れたとしても、仕立てる事ができませんし、図案や色決めもあるのに。なにより、来週までになんて無茶です」


 二人が言い合う中、会話を頭でごちゃごちゃと考えていると、少しずつ一つの案が頭で形になっていく。

 ここで作ることに意味があるのならば、別に夕雅様でなくてもいいのでは。

 それに、彼女が選んでほしいと言っているのは着物。服のデザインと服自体。


「あの、扇様、少しよろしいでしょうか?」

「……なんや」

 夕雅様から不機嫌そうに私へ視線を向ける彼女。眼光鋭く、瞳孔は縦長に伸びている。

 まるで猫みたいと思いつつ、私はにっこりと笑いながら口を開いた。


「その、白無垢を、私がデザインしても良いですか!」

「はあ?」

「テュベルーズ殿!?」

「「「奥方様!?」」」

 屋敷に響き渡る驚愕の声、皆それぞれが私に視線を向け、目を見開いていた。




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