第22話 技術と見目

 

「ほんま、嫁ちゃんおって、助かったわ。犯人分からずじまいやけど。でも、これなら間に合うわ。ありがとう」

「本当にお世話おかけしました〜!」

「「「ありがとうございます」」」

 少しげっそりとした早暁親方と、鶯やからくりたちは私に向かって頭を下げた。ただ、感謝したいのはむしろ自分の方だった。

 

「私こそ、皆さんのお役に立てて良かったです。自分の魔法でも役に立つんだって、初めて感じました」

 武装魔女の集落において、戦闘に役に立たない魔法はないのと同じと言われていた。私の魔法も、「ない」側の扱い。自分では大好きな魔法であるが、この魔法では相手を始末することも、傷を綺麗に癒やすことも難しい・・・


 だからこそ、自分の魔法が生かされた今、なんとも言えない高揚があった。無我夢中で色について考えられたのも楽しい。

 嬉しくて頬が緩む私に、早暁親方はくわっと表情を変えた。


「嫁ちゃんの魔法が、初めて役に立った!? 嘘やろ、この魔法さえあれば、儂らどんだけ助かるか!」

 とんでもない咆哮に、思わず仰け反った。私は思わず後ろに倒れそうになるが、すぐに夕雅様が背中を支えてくれたので、持ちこたえられた。

「伯父上、落ち着いてください」

 珍しく低い声で冷静な声の夕雅様に、流石に早暁親方も我に返ったのか、「すまん」と頭を掻きながら冷静さを取り戻していた。

 その早暁親方の代わりに、鶯がかっこよくポーズを取りながら前に出てきた。

「奥方様、からくりは何も仕組みだけではありません。その見た目も着飾ってなんぼでごぜぇます。技術と見目が噛み合って、一流のからくり!」

 タタンッと、なにか音が鳴る。よく見れば鶯の後ろにいた狐が、木の棒二本持っていた。


「しかああし、設計ならまだしも、試し塗り、色調合、柄図案、すんべて銭も時間も掛かるもの! しかし、そこに銭は湧かないのでごぜぇます!」

 確かに、そうかもしれない。塗料だって仕入れをしていると言っており、お金が掛かるのだろう。でも、私の魔法ならば色調合は簡単にできるし、試し塗りや柄図案は私のスケッチブックで再現できる。塗料を節約できるのだ。


「ですが、奥方様のすばらしい魔法、そして、色に対する鋭い目。それがあれば、設計や作成にもっと人を割く事が出来る! からくりはもっと良いものになるのは、火を見るよりも明らか!」

「よっ、さすが奥方様!」

「お手伝いを!」

「お願いします!」

「色決めしなきゃいけないもの、たくさんあるんです~!」

 鶯以外のからくりたちからも声が掛かる。よく見れば、彼らの手には設計図や色見本らしきものが握られていた。見た感じ、かなりの量があるようだ。


「皆、テュベルーズ殿を困らさないでくれるか。今日はもう日が暮れる」

 夕雅様がじとりと周囲を見渡す。確かに日はだいぶ傾いている。それに気づいた他のからくりたちも、仕方なく肩を落としていた。なんだか申し訳なくて、どうしようと夕雅様を見ると、彼は優しく微笑んだ。

「今日は色々ありましたし、もう帰りましょう。手伝いはこれからいつでも出来ますから」

 優しく私を諭す夕雅様に、私は頷く。確かに今日は色々あって、少し疲れも感じていた。


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