第19話 小鳥の色見本

 並べられた小鳥の絵は、それぞれ緑や赤、青、黄、紫。すべて単色で、その鮮やかかつ少しレトロな色合いは、なんとも心を擽る。私はその紙を一枚一枚手にとっては、その色合いを楽しむ。


「千羽飛ばすんや、はよ決めて、さっさと塗らな間に合わんから」

「千羽も! からくりって、飛べるのですか!?」

 早暁親方の言葉はにわかに信じられないものだった。からくりが空を飛べるなんて。これも精霊の力かと思うが、設計的に入るスペースは無さそうだ。


「そうですよ。冠婚葬祭、何かあれば、小鳥を飛ばすのが習わしです。黒は弔いの色だから選べないですが、それ以外なら変えることもできます」

「変えるなら、色まで決めてもらわな困るんやけど」

 夕雅様は優しい提案をしてくれる傍ら、早暁親方はじとっと夕雅様を睨む。睨んでいる表情的に、面倒なことをと叫びたい気持ちなのがわかる。

 では、何色にしようか。


「ちょっと待ってくださいね」

 私は二人に断りを入れて、自分の長い後ろ髪に手を入れる。そして、髪の中からスケッチブックを取り出した。



「なっ?」

「えっ」

 驚いている二人の声は聞こえるが、それよりも色選びを優先している私の頭。スケッチブックを開くと、綺麗な空色が塗られたページが出てくる。

 いやこの色は勿忘草色空色よりも少し濃い水色に近いかも。たしかに、空色よりも扇鶴国の晴れた空の色に近い気がする。スケッチブックがこの島に到着する際に塗っていた色を、一面に広げていてくれたようだ。


「《罪作りな夜に会いましょうニュイ・ド・クリミネル》」

 私は呪文を唱えると、設計書や色見本を一枚ずつスケッチブックに挟み、閉じては開けてを繰り返す。すると、自然にスケッチブックのページには空の背景と、各色の小鳥たちの絵が描かれていた。


「うーん、少し違う気がしますわね」

 どれも少し空色に乗せると、本来の美しい色のはずが、ピンッと来ない。

 もしかしたら、光や艶でいい感じになるのか。でも、私達の結婚らしい色のがいいのかもしれない。


「なんやすごいな、これで色合いを見れるんか。嫁さん、うちで働かん? めちゃくちゃ欲しいんやけど」

「伯父上」

 早暁親方はなんだかウキウキした面持ちで私を横からスカウトしてくるのを、またもや夕雅様が止める。私も反応すべきなのだろうが、どうしても色のことになると、それで手一杯になってしまうのが私の悪い癖だ。

 でも、この中ならどれだろうか。調色したい気持ちもあるが、そこまでお手を煩わせたくない。


「この中だと、鉄紺濃い紺色でしょうか。夕雅様はどう思いますか?」

「良いと思いますよ。私も紺色は好きな色です」

「さよか、これでようやっと色塗れるわ」

 この中ならと、一番馴染みの良さそうな鉄紺色で決まった。その時だった。


 パンッ!

「早暁親方、大変てぇへんでごぜぇます!」

 そう言って大声で叫んで入ってきたのは、狐のからくり人形だった。

 

 

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