第18話 茶は美味しい


「ほぅ、えらいけったいな嫁やなぁ。わしは早暁。こいつのアホな母親の兄で、今は『鶴唐草堂』三代目親方や。まあ、座れ。茶くらい出したる」

 どうやら性格も一筋縄ではいかない人のよう。夕雅様の母親に対して、さらりと毒を吐く。夕雅様は反論することもせず、ただ静かに早暁親方のことを見ていた。思えば、夕雅様のご両親について、私は何も知らない。私自身があまり親の話をされたくないからか、自然と彼の両親について触れようと思わなかった。

「あ、あと鶯、お前はうっさいから戻ってええで」

「はいさ! それでは皆様また後でお会いしましょう〜」

 鶯さんは、早暁親方の口の荒さには慣れてるのか、さっさとさらりと逃げていく。その引き際は、まさに立つ鳥跡を濁さずだ。


「伯父上、ありがとうございます。あと、誰であれ、居ない人のことは悪く言うべきではありません」

「父親似やなぁ。ほんま、真面目すぎるわ。あいつは、正直罵られてもしゃあない。嫁さんは知っとるか? あいつはなぁ」

「伯父上」

「わぁたわ、入り」

 真面目に指摘する夕雅様に対して、早暁は肩を竦める。彼らのお母様は一体何をしてしまったんだろう。気にはなるけれど、これは夕雅様がいつか話してくれる時まで待つべきである。


 早暁親方に促されるまま、部屋の中へと入っていく。部屋の中には壁一面の箪笥、床に積み上げられた設計図、色見本、作りかけのからくり、複雑な模様の箱などが置かれている。私は思わずきょろきょろと目を動かし、その異空間に感動していた。


 勿論、お茶はからくり人形が運んでくる。人形からお茶を受け取った私達は少し喉を潤した。さっぱりとしつつ香ばしさがあるお茶。

 私が良く飲んでいた紅茶とは、色は似てるのに味は全く違う。


「このお茶美味しいですわ!」

「麦茶ええよな、儂はいっっちゃん好きやねん。姉ちゃんよう分かってるやん」

「このまろやかで、身体に染み渡るのが良いですね」

「せやせや、ちょい塩入れたり砂糖入れたりで味変わるんもめっちゃええねん」

「伯父上」

 意気投合する私達に、夕雅様は少し拗ねたように口を尖らしていた。なんか真面目な話をしようとしてたのかもしれない。申し訳ない事をしたかもと少し肩を落としている私と対象的に、早暁親方はにやにやと嫌な笑みを浮かべる。


「なんや、盗られると思ってん? 儂の好みはムチムチのガチガチや。安心せぇ」

「むちむちのがちがち?」

「なっ! それは良いのです、早くお披露目の儀を調整しましょう」

 聞き慣れない単語を聞き返した私の隣で、慌てた様子の夕雅様。思わず驚いて顔を見ると、頬を朱くして慌てて話を反らした。私もなんだか、また心臓をギュッと掴まれた気持ちになり、頬が朱くなる。


「へいへい、さっさと決めて欲しいことがあってなやな、お披露目の儀用の『小鳥』。今何色にするかいくつか出したから見てみてや」


 『小鳥』?

 早暁は十枚ほどの紙を乱雑に並べていく。そこにはどれも単色が塗られた小鳥の絵だった。

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