第17話 鶯の口上
「て、手伝いですか?」
突然のことで、声が変に裏返る。交易の手伝いなんて、私には想像もつかないお願いだ。
「ええ。まずは、大陸のことを、教えてもらえませんか? 意見だけでもいいのです。私と一緒にこの国をもっと豊かにしていきましょう」
彼の真剣な熱意に、私はたじろぎながら小さく縦に何回も頷く。意外と強引なところがあるのね、と新しい一面を知れたことが、少し嬉しかった。
でも、私に何が出来るのだろうか。大陸だって、ちょっと通過してきたくらい。
人生の殆どを、宮殿のあの部屋か、魔女の集落で過ごしてきた。
私に出来ることが、どうしてもピンッと来なかった。
暫くして、馬人形は大きく嘶き、目的地へと到着した。そこには、これまた大きな平屋屋敷で、玄関に飾られた鶴と草模様が特徴的な看板がどどんと主張をしている。
その店の前には、私達を待っている者がいた。
「それでは、奥方様に、扇鶴国の真骨頂! 奇跡のからくりの生みの親! 『
私達を待ち構えていた案内係、鶯の頭をしたからくり人形の番頭は、ぐるぐると扇子を開いて楽しく回っている。私達は驚きながら、彼の後ろに着いて屋敷へと入っていく。鶴唐草堂の中では精霊たちや、様々な形のからくりらしき物が忙しなく動いていた。
木の裁断や、パーツへの加工、ヤスリがけ、着色、組み立て、仕上げ。弟子らしき精霊たちが掃除をしていたり、その傍らで水を飲むからくりや、ご飯を食べるからくりもいる。
鶯の軽快なトークはしっかりと笑いを取りながらも、とてもわかり易い説明のため、私も終始興味深く辺りを見ることができた。なによりも、からくり人形に着せる服を考えているところでは、思わずスケッチブックを取り出そうとしてしまったほど。
今まで見たことのない柄の生地、色、素材が並んでいた。触りたい、眺めたい、埋もれたい。しかし、それをぐっと堪えて足を進める。
「さあて、ここは私等の最深部。『鶴唐草堂』の親方様の部屋。からくりの目を入れられるのはこの人しかおりやぁせん!
最深部と言われた部屋、そこは案外質素な作りであった。
甥夫婦という言葉に反応しようとした瞬間、鶯の高らかな言葉にパンッと引き戸が開いた。
「うっさいわ、鶯。よぉ、叫ばんでも聞こえるっちゅぅに。久々やなぁ、夕の坊。そっちがカミさんか」
唸り声に近いような声、響く低音は私の身体の芯を震わせる。この男、強者だ。
「お久しぶりです、伯父上。はい、私の半身のテュベルーズ殿です」
夕雅様が叔父上と呼んだ相手。
しゃがれた声によく似合う口調の粗さ。
その人は私よりも大きく、
一目見ただけでも、やはり強者とわかるその姿。私の心の中にいる魔女の部分が、それだけで浮き立つ。
そう、まさに、親方と呼ばれた人は、鬼だった。
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