第16話 大地色の朝餉


「いただきます」

「「「いただきます」」」

「い、いただきます!」


 夕雅様の言葉と共に精霊たちは同じく唱える。ただ、食膳は私達のみ。精霊たちはじっと私達を見ている。

 どうしよう、この箸どう使うのかしら。

 隣の夕雅様は優雅に箸を使いこなしているが、どう持つべきなのか、じっと見た所でわからない。


 一応箸を持ってみるが握るか指で挟むか、わちゃわちゃと手を動かしてるだけ。お腹が空いているのにと、頭を抱えてしまう。助けてくれと思ってると、一人の小さな精霊が私の手元にやってきた。


「はし、もったことなぁい?」

 純粋な疑問だったのだろう。首を傾げる幼い精霊。た、助かった。

「私のお家には箸はなかったの。だから、困ってるわ」

 私は質問に答える形で、箸の使い方を知らないと伝える。本当ならば最初に言えば良かった。しかし、タイミングを失うと言いづらいというのが、変に齢だけを重ねた悪いところである。


「はしないの? なにでたべてたの?」

「フォークとスプーンとナイフよ」

「いっぱい、あるね! すごいね!」

「箸を使えるのもすごいわ」

 子供のお陰で、すらすらと状況を伝えると。奥からガタガタガタガタッと音を鳴らしながら、スプーンらしきものを運ぶ市松人形がやってくる。


「申し訳ありません、こちらのさじをお使いください」

市松人形の中から声が聞こえる。どうやら、その中には精霊がいるようだ。


「こちらこそ、お気遣いありがとうございます。お箸使えるようにこれからがんばります。精霊さんもありがとうございます」

「わぁ、おうえんするねぇ」

「奥方さま、ありがとうございます」


 匙を受け取った私は、周りの精霊たちに感謝をしてやっと食べ始める。大地の色で構成されたご飯は、見た目からして心をホッコリさせる。

 みそ汁の中に入っている玉ねぎは甘く、胃の中をじんわりと温めてくれる。少し癖があり塩っぱい汁物だが、なんだかほっこりする。

 ご飯は何だかもちゃりともちゃりとしており、歯ごたえのある部分もあり、食感として楽しい。豆腐は柔らかく淡白な味だが、生姜と塩っぱい黒いタレと緑の何かがが絶妙。辛味と爽やかさ、でもコクがある。

 でもやっぱり、サバ、サバです。魚を食べれる機会はそこまで無かった。サバを食べたのは隣の国の港町でフライを食べた程度だ。

 やはり、匙で身を崩すのは難しいけれど、一口入れただけで、優勝できる味。少し甘辛く味付けされており、塩加減も丁度よい、ごまの風味が相まって、正直感動している。

 

「とぉっても美味しいですわ!」

「良かったです」

 感動して涙目になっている私、この気持ちを伝えたくて夕雅様に話しかける。少し驚いた顔をした夕雅様は、なんだか嬉しそうに笑った。




 食事後少し休んでから、からくり馬人形力車に乗った。隣には、勿論夕雅様がいる。

「これからどこに?」

「この国の要です。からくりを作る職人がいる場所に向かいます」

 国の要。大層な響きに、私の背筋が伸びる。たしかに、この国にとって《からくり》は欠かせないものだろう。道行く田園にも、今走る馬人形も、話を聞くにすべて《からくり》らしい。


「《からくり》は精霊がすべて入ってるのですか?」

「いえ、歯車で動くものもありますし、精霊石という霊力の塊等でも、稼働させることもできますよ。精霊が宿っている方が、緻密な作業はし易いですが。この馬人形は精霊が宿っているものになります」

「そうなのですね、すごいです」

 霊力という初耳の言葉、私達のところで言う魔力のようなことだろうか。《からくり》にも色々あると聞き、私はふと目を開ける。もしかして、頼めば薬草を自動で擦り潰すものが出来るだろうか。この年になると、肌や体調は薬草頼りになる。でも、薬草を使えるように擦り潰すのは、けっこう大変なのだ。


 この私利私欲をどうお願いすべきかと、小難しいからくりの仕組みを話す夕雅様の横顔を見ながら悩んでると、急にこちらへと彼が振り向いた。真剣な白銀の瞳に見つめられると、思わずその美しさに目を奪われ、胸がドキッと高鳴った。


「私の代で叶えるべき事は、この国の交易を広げること。なので、今回テュベルーズ殿が嫁いで来てくださいました。もし、お手数でなければ、交易の手伝いをしてほしいのです」

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