第15話 立ちはだかる漆黒の棒
「失礼な確認かもしれないのですが、夕雅様は《からくり》ではないのですね」
お互い少し熱くなった頬を冷ました後、私は思ったことを伝える。艷やかな手と熱は木で再現できるものではない。
「ええ、私は精霊である父上と、鬼である母上から生まれたので、精霊の皆よりも身体も大きいのですよ」
「本当に生まれた時から大成しておりました。じぃはその日のことを忘れませんぞおうあんうぉんうぉおおん」
精霊と鬼から。鬼もこの国にいるのを初めて知る。本当におとぎの世界のようだ。ただ、話す夕雅様の顔はなんだか少し寂しそうで、それがなぜだか引っかかった。
しかし、彼の膝に座っていたお爺さん精霊が、感極まったのか突如として大泣きし始めたため、意識はそちらへと取られる。
この声、耳覚えがある。
泣いている精霊をじっくり見ると、出迎え時に大泣きしていたお爺さんの姿が重なった。
あの後、日も高くなってきた為皆一度解散し。私は十人の女性の精霊に案内されつつ、元の部屋へと戻った。
そして、暫くすると二体のからくりの女性たちがやってきた。どちらも無表情ではあるが、顔の形はそれぞれちゃんと個性がある。
「わぁが奥方様のお付きしますぅ、『お
少し青白い肌で、涼しげな顔をしたお鷹は、なんだかあまり似合わない柿色の着物を着ている。
「わっちは『お
そして、お鳶は健康的な肌をしており、人懐っこい顔をしている。ただ、なんだか薄水色の着物が彼女の顔色を悪くしていた。
なんだかそれが、少しもったいないように心のなかで思う。でも、服の色は好き好きだしと、私は二人にされるがまま、湯浴みと着替えを行った。
藍下黒の生地に金色が映えた美しい色の着物。それに紫の帯を締める。所々金色の小物がとてもかわいい。
どうにか服を着替えて、次に向かったのは、朝食を食べる部屋。夕雅様は部屋の奥に鎮座しており、コの字になるように幾人かの精霊たちも並んで座っている。
そして、夕雅様の隣には一つ席が空いていた。
「奥方様は、あちらでございますぅ」
「ありがとうございます」
私は案内されるまま、夕雅様の隣に座る。お互い小さく会釈だけをしていると、からくり人形たちによる配膳が始まった。
前髪も後ろ髪もバッツリと切られた女の子の人形たちが、次々と私と夕雅様の前にある机に、料理を置いていく。
「夕雅様、この人形可愛いですね」
「市松人形と言います。よくからくりとして使われてるのですよ」
陶磁器の器に盛られた薄茶色の山は、確かごはん。漆塗りの木の器に盛られた赤褐色のスープはみそ汁。象牙色の四角いものは豆腐。焼いた魚はサバだろうか。しかし、サバにしては身のところが深紅色に染まっており、胡麻が振られている。
ただ、それよりも私の目を奪ったものがある。
細い漆黒の木の棒二本。お父様から頂いた資料に書かれていたが、初めて実物を見た。
昨日ご飯を食べる機会を逃したせいでお腹は空いているが、私は今立ちはだかる大きな問題のせいで動けないでいた。
さて、箸って、一体どう使うのかしら。
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