第14話 小さなカラーパレット


「精霊ですか!?」

「はい、実はそうなんです。私も血は半分精霊なのですよ」


 夕雅様の言葉に、私はただ驚くしか無い。この世界のどこかにあると伝えられていた精霊の国が、まさか扇鶴国だとは思わなかった。

 しかも、夕雅様も精霊の血を引いているらしい。

 確かに彼の身長は小さいが、この手のりサイズの精霊たちから生まれたとは思えなかった。

「若様は特別なお方なのですー!」

「なのですー!」

「若様は優しくて強いのですー!」

「いのですー!」

「若様は眉目秀麗なのですー!」

「なのですー!」

 夕雅様の説明を聞く私の隣で、小さな精霊たちは透けた羽を動かし、「若様の良いところ」を声高に主張していた。

 精霊たちの色とりどりの着物は、なんだか点描画やカラーパレットに見えて、とても凄く愛でたい。そんな場合ではないのだけれども。


「あと、昨日出迎えた者は全て、ここにいる精霊が操作した《からくり人形》で……」

「からくり人形!?」

 私が驚いて見渡すと、精霊たちが皆困ったり、泣きそうな顔をしているの気付く。不安そうにこちらを見ており、なんだか私が悪いことしたような気分だ。私はその視線から目を反らし、どう飲み込めば良いかわからず夕雅様を見る。すると、彼は彼で真面目な顔で私に頭を下げた。


「精霊は小さき者。もしこれを理由に、他国からの侵入されたら困ります。ですので、《からくり人形》は、少しでも体を大きく見せ、自分たちを守るための手段なのです。しかし、テュベルーズ殿からしたら、真実を伝えず騙したようなもの。謝罪致します」

 真面目なのだろうが、深々と頭を下げる夕雅様。どうやら彼としては、このことは騙したという認識になるよう。


「頭を上げてください! 国ごとに事情があるのは世の常ですわ!」

 しかし、私としてはこんなこと謝る対象でもない。寧ろこれくらいで謝られてしまったら、イタズラや嘘が大好きな魔女たちからは、毎日謝罪を聞かされることになる。魔女達は、基本謝らない。というか、謝ったら負けだと思ってる。


「テュベルーズ殿は、本当に優しいお方なのですね……」

 ゆっくりと頭を上げた夕雅様は、私の言葉に心底安堵したのか、胸を撫で下ろしながら微笑む。柔らかに微笑む顔に、狼狽えていた私も同じく身体から力が抜けていく。


「一つお尋ねしてもよろしいかしら?」

「勿論です、なんなりと」

「昨日皆さまが無表情だったのは、からくりだったからですか?」

「はい、その通りです。顔の仕組みは難しいもので、木組だけでの再現は難しく。大変不気味でしたでしょう。私達の、今の課題の一つなのです」

 からくりの仕組みはよくわからないが、表情というものは細かい動きでできているため、再現が難しいのはなんとなく想像ができる。

 たしかに不気味ではあったが、この理由ならばやっと安心ができる。


「そうですか。私が嫌われていたわけではないのですね」

「滅相もございません! 寧ろ……」「若様の幸せを嫌うなんてそんなこと!」「奥方様きれいでございますー!」「かわいですー!」「てんねーん!」「ねーん!」

 安心したせいか、口からポロリと本音が溢れてしまった。夕雅様や精霊たちが、慌てて言葉を上げながら私に詰め寄る。

 綺麗と言われたのは人生で初めてなため、お世辞であろうか。ただ、必死な表情からそれが嘘だとは思えなかった。

 呆気にとられてる最中、ぎゅっと夕雅様に握られる手。真剣な白銀色の眼差しが私に向けられていた。


「そ、そうなのですね、嬉しいですわ」

 なんだかバクッと跳ねた心臓。それを誤魔化すように私は目を逸らした。たくさんの視線は、最初は私からゆっくりと握られた手に向けられる。夕雅様は咄嗟にやった行動に気付いたのか、手から顔までカーッと紅く染まった。燃えるような熱さのせいか、なんだか私にまで伝播してくる。


「あっ、あああ、もっ、申し訳ございません!」

「ああああああ頭を上げてくださいまし!」

 手を離した途端頭を下げる夕雅様。私はまた、慌てて頭を上げるよう叫んだ。

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