第8話 パープルマーブルマジック

 指でスケッチブックの紙に丸い円を描く。すると、私の指で撫でた所がまるで絵の具を使ったかのように色づく。その色は単色にとどまらず、赤、青、黄色、白とマーブル柄へと変わった。


 綺麗な丸い円を結ぶように指先を動かせば、スケッチブックの色が光りはじめる。そして、その光は次第に形を成し、スケッチブックから浮き上がる。

「綺麗です」

 夕雅様のあまりのことで驚いたのか、声が上擦っていた。そして、こちらへと身を乗り出して、光に顔を近づける。それがなんだか幼い子供っぽくて、ちょっと可愛い。


 私はその光をスケッチブックに戻すと、次は色相環のなるようドーナッツ上に色を並べる。変な混色もなく、ただただ美しいグラデーションに、夕雅様は「凄いです!」と感嘆の声を漏らす。


「美しい、こんな難しい配色を、素晴らしいです」

 思ったよりも驚いている反応に、私はどんどんと楽しくなってしまう。


「ええ、そして、この魔法はもっとすごいのです。今着替えるので、見ててくださいね」

「えっ、着替ぇ……そ、それは、こ、こではっ!」

 何故か慌てる夕雅様をよそに、私はスケッチブックのページを捲る。そこには今着用しているドレスの絵が書かれていた。その上を手で優しく撫でた。

 ドレスの絵が、もっとタイトに、レースが使われたドレスへと変わる。そうして、さっきしていたように抱き締めた。一瞬の光が私の身体を包み、次の瞬間にはタイトのドレスへと変わっていた。


「勿論、形だけではなくて」

 もう一度デザイン画を撫でると、撫でた場所からまるで水の波紋が広がるように、まずは絵の中のドレスに様々な紫と黒の花の絵が咲き誇る。魔女帽子のツバの裏にも、マーブルの模様がぐるりぐるりと回転しはじめた。そして、絵から少し遅れて、私が着ているドレスにも同じように模様が現れる。

 ぐるぐると動き変容していくマーブル柄と、美しい花の絵。なんとも幻想的なドレスだろう。紫色は私の大好きな色であり、私の母と私の瞳の色でもある。謂わば、特別な色だ。


「簡単に柄も変えられますの。けど、先程のように魔法を消されると、魔法じゃない部分だけ残るようです」

 おしゃれを楽しんで上機嫌な私は、るんるんと夕雅様は視線を向ける。しかし、夕雅様の顔は何故か真っ赤に染まり、困ったように眉を下げていた。予想外の反応だった。


「テュ、テュベルーズ殿。わ、私をお許しください!」

「えっ!?」

 赤くなった顔を手で覆いつつ、何故か私に謝罪をする夕雅様。一体何事だと、私はただ困惑するしか無い。どうしようと困惑していると、まるで図ったかの如くからくり人形が「ヒヒーンッ!」と鳴いた。

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