第2話 無の色
「異国のお嫁さんだぁ! 若様のお嫁さんだぁ!」
「嫁御様、遠路はるばる着ていただき感謝を申し上げます。お荷物はどちらに?」
「なんと本当に来てくださるとは、天は我らを見放してなかったのだ!」
「なんと背も高くてお美しい! やはり、
「
次々にやいやい話す人達。
彼らの言葉や声色は、全て好意的かつ喜びの感情に溢れている。
なのにも関わらずだ。全員が全員、表情が全く無い。無なのだ、無。
幼い子供も、親切な女性も、天への祈りを捧げる男も、私の容姿を褒める人も、表情の一つも変わらない。
特に涙も何も流していない無表情の老人が、しっかりとした男泣きしているのも怖い。
私の
どんとこい嫁いびり、と思っていたのに。
しかし、こんなチグハグな状況じゃ、歓迎されてるのか、馬鹿にされてるのかわからない。
読み取れないこの矛盾にどう反応すべきか、未だ振り続ける美しい紙吹雪の中思案していた時だった。
「皆の者、落ち着きなさい。グリネワンド殿が困っているだろ」
男にしては少し高く、柔らかな声が響いた。
あまりにも不思議な声は、喜んでいた人達の耳に届き、先程のやかましさが一瞬にして止んだ。そして、詰め寄っていた人達がまるで操られてるかのようにスッと動き、私の前に一筋の道が出来る。
その道を、扇鶴国の伝統的礼装である黒い紋付袴を着た人がこちらへと歩いてきた。
「申し訳ありません、グリネワンド殿。怖がらせてしまいました」
そう言って私の前に立つ彼、その背は私の頭一個分ほど小さく、顔立ち的にも十代の幼さがある。彼の耳は長くとんがり、目はにっこりと三日月のように笑っている。もう一つ特徴的なのが、肌の色。白の下から少し透けた青を感じる、なんとも例えがたい不思議な色合い。
勿論、肌がもちもちで、くすみもないし、ムラもない。これが、若さか。若さなのか。
「いえ、大丈夫です。あの、貴方は……」
「私は、
彼の言葉に、私は首を傾げる。
「半身って?」
「我が国では、婚姻の縁を結んだ人のことを、そう呼ぶのです」
半身は、縁を結んだ人。ということは、多分夫婦という意味だろう。
私は、彼を今一度まじまじと見る。
こちらをまっすぐと見つめ、こちらの様子を窺う彼の耳はほんのり赤い。
私は身近に男がいない場所で育ったので、男の人の成長に疎い。そんな私でも、流石に今の状況がわかる。
今の心境を、感情任せに、心のなかで、叫ばせていただこう。
はい!?
お父様から相手は独り身の「帝王」って聞いたから、晩年差し掛かりの爺さんが出てくると思っていたのに!
私、こんな年下の若い子と!?
三十三だよ、私!?
流石に犯罪でしょ!?
辛うじてある倫理観が警鐘音を鳴らす。ざっと身体から血の気が引いていく。
ああ、どうしよう。最初に立てた
どうしようと困惑する私に、彼は手を差し出した。
「
雨神?
将来の旦那様にされた最初の願いは、よくわからないお誘いだった。
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