第7話 紅くなる季節
店の周りにあった緑の木々が紅くなる。
季節は秋、冬に向けてどんどんと寒くなっていっている。
庭には秋の重みに耐え切れずに落ちた葉が無数にある。
庭掃除をしたいところだが……
僕はある道具を目の前に置いて立ち止まる。
それは去年の秋に拾った部屋を暖めることができる魔道具だ。
この道具は燃料を使って動く。
燃料とは魔結晶と呼ばれる魔力の塊だ。
そろそろ暖房器具を出そうかなって出してきたは良いが燃料が無いのか……
魔結晶は滅多に手に入れられないレアアイテムだ。
今年の冬は暖房無しで過ごさないといけないのか……
正直に言うとこの道具を使い始めてから僕は寒さに弱くなった。
もう2度と普通の寒い冬は味わいたくないのだ。
だから僕は僅かな可能性に賭けて木枯らしが吹く中、外に魔結晶を探しに出た。
首には店にあったマフラーを巻き、手には手袋を着けている。
せめてもの足しになれば良いが……
僕は落ち葉を踏み鳴らしながら歩く。
すると、何か物体を見つけた。
僕は急いで近づいた。
しかし、それはさつまいもだった。
食べ物が落ちている事は珍しくない。
特に季節の旬の物なんかは良く落ちている。
目当ての物ではないが後で焼き芋にでもして食べようかな。
僕はさつまいもを懐に入れてまた歩き出した。
心なしか木枯らしが1段と強くなった気がする。
さつまいもでより秋という事を実感したからだろうか……
僕はその後も店の周りを右往左往したが、魔結晶は見つからなかった。
僕は諦めて店に帰った。
さつまいもでも食べるか……
最近、季節の行事というものをやっていない気がする。
ふとそんな事が頭に思い浮かんだ。
秋は月見と呼ばれるものかな……
残念ながら僕は月という物は本でしか見たことがない。
この世界には月がないのだ。
だが月見は月が無くても行える。
団子を月に見立てるのだ。
季節の行事をやる意味というのは季節特有の事をやってこの季節になったことを実感……信じ込み季節の力を高めるためだ。
季節の力が高まると冬だとより寒くなったりするのだ。
僕はさつまいもを焼く準備をしながらそんな事を考える。
僕は店の外で落ち葉をかき集め、マッチで火をつける。
そこにさつまいもを入れる。
これで少し暖かくなった。
僕が焼き芋ができるのを待っていると森から人が出てきた。
どうやら客が来たみたいだ。
僕はすぐに裏口から店に入った。
焼き芋より客が優先だ。
カランカラン、客が入店してきた。
客は魔法使いの格好をしていた。
魔法使いというと少々嫌な思い出があるがこの魔法使いは大丈夫そうだ。
「いらっしゃいませ。」
「ここが、噂のよろず屋か……」
僕の店は噂になっているのか。
「お買い求めの品はありますか?」
「う〜ん……折角だし何か買っとかないと損だよな。じゃああれ買おうかな。」
魔法使いは店の奥の机に置いてある暖房機能がある魔道具を指さした。
……僕は悩んだ。
ここで売ってしまうと可能性が完全になくなってしまう……
いや……客は全てに優先するか。
「はい。どうぞ。」
僕は魔道具を渡した。
「あれ?これ壊れてる。」
「えっ?」
「燃料はまだ残ってるみたいだしこれで良いよ。いくらだ?」
「無料で良いですよ。お客様に壊れた品を売る程うちは廃れてないので。」
そう言うと、魔法使いは魔道具を持って帰っていった。
まさか壊れてるとは思わなかったな。
よろず屋店主として見極める練習でもしようかな。
僕は焦げた焼き芋を食べながら思った。
名もなきよろず屋 杜鵑花 @tokenka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。名もなきよろず屋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます