第2話 期待

私は駅前から少し離れた場所にある静かなカフェで向き合いながら、最近のことを話している。アクセサリーなんか付けたことのない彼女が、左手の薬指にリングが光っている。会った瞬間に気づいてしまった。誘わなければ良かったと後悔がよぎる。

3ヶ月前に会ったときは、彼氏すらいなかったのに、どうして今とやる事全てが裏目出て嫌に気持ちになった。

極力彼女の左手を意識から遠ざけるように、最初の話題は仕事にした。

仕事の話をしたすぐから両手を机の上で重ねて、わざわざ左手を上にしてる。仕事の話を切り上げ、彼女の左手に話題を移した。今までより、話すスピードもトーンも上がって自慢気に「馴れ初め」や「プロポーズの言葉」を相槌だけの私に話してくる。聞いてもないのにと心底思う。


ひとしきり話したあとに、「今日はどうしたの?」と聞いてきた。彼氏と別れた話を簡単にした。

「七海ならまたいい人絶対見つかるよ」「ありがとう」それが精一杯だった。

口から溢れそう思いをとどめられるうちに、帰ることにした。

消化出来ない気持ちがずっーと全身を気だるくする。私が少し我慢すれば、良かったのだろうか? そしたらプロポーズを受けて、結婚していたかも、とも思うし、やっぱりあの場面で私を選べない男なんて、許せないとも思う。いつしか大事な時に選択を誤るて確信してるからこそ、別れを受け入れた。

彼は付き合った当初から、優しくて何でも話を聞いてくれた。今まで一番優しかったから、結婚しても良いと期待していた。

その分、彼は自分を捨ててまで私を選ぶ覚悟がなかったことに、期待を裏切られた。2人でいたのに私は孤独だった。

帰り道の私の頭でグルグルそんな考えが蠢くのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高価な果実 @jonny33727

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ