雨降り、バス停にて

長月瓦礫

雨降り、バス停にて

 

今日は朝から雨が降り続いている。

ところどころに水たまりができ、地面がぬかるんでいる。

バスの停留所に恰幅のいいタヌキみたいな男、額から角が生えた青年が傘をさして立っている。化けタヌキと鬼が並んでいる。


「今日はありがとう。うちの子たちも喜んでいたよ」


「そうか、それならよかった」


近所にある里山にタヌキ一家が住んでいる。

彼らの引っ越しを手伝いに行っていた。

人間とうまくやっていくために、山から山へと各地を移住している。


昔からの付き合いで、引っ越しの時は必ず手伝いに行くことになっている。

大雨という引っ越しするには最悪の天候になったとしても、気にも留めなくなった。

恒例行事のようなものである。


「それにしても、君が来るといつも雨だな」


「いい天気だろ?」


「確かに、悪くないな」


このやり取りも挨拶のようなものだ。

雨が音を立てて地面に打ち付けられる。

この悪路だから、しばらくかかりそうだ。


「今度、みんなを連れて神社に遊びに行くからね」


「それは嬉しいね、うちの連中も喜ぶよ」


「いつも来てもらっているからね、たまには顔を出さないと」


使われていない神社を拠点にし、こっそり活動している。

人間に悪さをする妖怪を裏で取り仕切っている。

その他、行政の雑用を肩代わりしている。


「どうだい、スマホの扱いに苦労していると聞くが」


「さすがに慣れたよ……まあ、画面を割るのは日常茶飯事だが」


「それはスマホを扱う上で一番慣れないといけないと思うんだが」


「こればっかりはどうしようもねえよ。

どいつもこいつもゴリ押しで解決しようとするんだからさ」


「鬼の悪いところが出てしまっているな……」


後先考えずに行動し後悔していることが多い。

少し考えればわかるだろうはずだが、その少しが面倒になるらしい。

それが改善されないまま数百年が経とうとしている。恐ろしい話だ。


曲がり角からバスの明かりが見え、停留所の前に止まった。


「それじゃ、また今度な」


「気をつけて帰るんだぞ」


二人は手を振って別れを告げた。

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雨降り、バス停にて 長月瓦礫 @debrisbottle00

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