おじいちゃんに会う日

燈 歩(alum)

1.

 おじいちゃん、遊びに来たよ。


「ああ、遠いところからよく来たな。また背、でっかくなったんじゃないか?」


 うん。クラスで後ろから二番目だよ。


「そうか。じゃあタケルはお父さんと一緒だな。お父さんも子供のうちから背が大きかったから」


 へぇ、知らなかった。ところでおじいちゃん、コンビニに連れて行ってよ。


「コンビニ? お菓子もジュースもあるじゃあないか」


 そうなんだけど、だって暇じゃん。ここにはゲームも、Wi-Fiもないでしょ。だから、コンビニに気分転換に行きたいんだ。ほら、暑いからアイスも食べたいし。


「タケルは、しゃれたことを言うようになったんだな。コンビニなんか、じいちゃんの軽トラで三十分も走らないといけないから、アイスなんてあっという間に溶けちまうよ」


 ええ、そんなに遠いの。じゃあゲームセンターは?


「そんなもん、ないに決まっているだろう。そうだな、タケルにはちょっと暇で窮屈な場所かもしれないな。それなのに遊びに来てくれてありがとうよ」


 そういうふうに言うのは、おいじいちゃん、なんだかズルいよ。じゃあ他に面白いこと、何かない?


「それなら釣りに行って、川遊びをしよう」


 ぼく、魚触れないよ。それに釣りって虫をエサにして魚を釣るんでしょ。ぼく、虫も嫌いだよ。


「タケルは物知りだなぁ。大丈夫だいじょうぶ。じいちゃんに任せなさい」




 わあ、すごい。魚ってこんなにキラキラしてるんだね。水がはねて冷たいや。こんなにたくさん釣れて楽しいね。


「じいちゃんは魚釣りの天才だからな。そのじいちゃんに教わったタケルもすぐに釣れるようになるよ」


 うん、明日も釣りに来るよ。


「よし、家にいるばあちゃんとお父さんとお母さんの分も釣れたから、次は鶏小屋に行ってみよう」


 ぼく、鶏触れないよ。


「大丈夫だいじょうぶ。じいちゃんに任せなさい」




 こんなにふわふわしてるんだね。それにあったかいなんて知らなかった。


「そうだろうそうだろう。この玉子で美味しい玉子焼きを作ってもらおうな」


 うん、お腹空いてきちゃった。


「そうだな、じゃあ最後に畑に行こう」


 畑には何があるの?


「ばあちゃんが作った野菜がたんと生っているいるから、収穫するんだ」


 でも、葉っぱに虫がいたりするんでしょ。それに僕は野菜が嫌いだよ。


「大丈夫だいじょうぶ。じいちゃんに任せなさい」




 野菜がこんなふうに生っているなんて知らなかったよ。こんなにたくさんあったら、取るの楽しいね。


「そうだろうそうだろう。楽しんで取った野菜は、食べてもすごく美味いんだぞ」


 うん、自分で取ったから、早く食べてみたいよ。ねえ、早く家に帰ろうよ。


「そうだな。ばあちゃんも、お父さんもお母さんも待っているから帰ろうな」




 ただいま!


「こんなに真っ黒に日焼けして。どこに行っていたの?」


 あのね、今日ね、おじいちゃんに色んなことを教えてもらったんだ。


 釣りをして魚をみんなの分取って来たし、鶏小屋で玉子も取って来たよ。最後は畑へ行って野菜もうんと取って来たんだ。だからこれを使ってご飯にしてよ。ぼく、たくさん食べられるよ。


「タケル一人でよくこんなに持って来れたもんだな。すごいぞ」


 違うよ、お父さん。おじいちゃんに教えてもらったんだってば。


「ああ、お盆だものね。おじいちゃんはタケルが来るのをいつも楽しみにしていたから」


 本当なんだよ。おじいちゃんのおかげで今日は楽しかったんだから。


「じいちゃんもタケルと過ごせて幸せな一日だったろうよ。ほら、おじいちゃんにお線香をあげてやっておくれ。その間にご飯を作ってあげるからね」


 おじいちゃん、また釣りに行ったり、鶏を抱っこしたり、野菜を取ったりしようね。


 来年も再来年も来るから、待っててね。とっても楽しかったよ。

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おじいちゃんに会う日 燈 歩(alum) @kakutounorenkinjutushiR

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