守り守られ、ガーディアン

つきまる

第1話 僕のガーディアン


 今日は、中学校の入学式。

 僕、舞月律まいつきりつは、この日をずっと待っていた。


 新しい環境、新しい友達、初めての制服……

 沢山のワクワクが、僕を待ちわびている。その中で、僕が最も楽しみにしているものは……


 「ガーディアン」の配布だ。


 僕たちが生きるこの世界には、危険な化け物が紛れている。それらから人類を守るために存在するのが、ガーディアンというものらしい。


 僕には、どんなガーディアンが貰えるんだろう。


 期待を胸を膨らませ、中学校の校門をくぐる。

 そして、校庭に貼り出されたクラスの案内を確認する。

 僕のクラスは……

 1年2組。


「あ、律。おはよ! 同じクラスだね、よろしく!」

「え、ほんと? やった!」


 話しかけてくれたのは、小学校からの親友の長谷川有城はせがわあるき

 彼がいると心強いため、同じクラスだったことはとても嬉しかった。


「有城、どんなガーディアンが貰えるんだろうね」

「ね〜、だってガーディアンって、一生一緒に過ごすことになるんだよね? すっごい大事だよね」

「うん、緊張するな〜!」


 そう。

 ガーディアンには、目標が死ぬまで、守護し続けるという使命がある。

 だから、人類にとって、どれだけガーディアンと仲良くなれるか。それがかなり重要なのだ。



――教室

 教室に着き、廊下に貼り出されていた座席表を確認して、自分の席に座った。

 惜しくも、有城とは少し離れていた。


 前も隣も知らない人だったため、自分の心臓の音を聴いたり、どんなガーディアンが貰えるかを想像したりして、先生が教室に来るまでの時間を過ごした。


「おはようございます〜」


 教室にやって来たのは、若い男性の先生だった。


「早速で申し訳ないんですけれども、もうすぐ入学式が始まりますので、廊下に整列してください〜」


 指示を受け、僕たち2組は、席の座り順を元に廊下に並んだ。



――体育館

 入学式が始まった。

 成績優秀者か何かが挨拶をしたり、新入生全員の名前が読み上げられたり、色々なことがあったが、僕にとっては、この時間は退屈でしかなかった。


 早く、ガーディアンは貰えないだろうか。



――教室

 再び教室に戻り、先生が黒板の前に立った。


「はい、改めまして。天崎解あまざきかいと申します。1年2組の担任をさせていただきます。担当教科は数学です。細かいことは、机の上に配った紙に書いてあるので、よく読んでください〜」


 話し方が特徴的で、関わりやすそうな印象だった。


「そして……」


 そう言って、天崎先生は、内ポケットから1枚のカードを取り出し、胸の前にかざした。

 すると、天崎先生の隣に、眼鏡をかけた背の高い男性が現れた。


「彼が、先生のガーディアンです〜」


 ガーディアン……!


「天崎さんのガーディアン、『No.519878』です。天崎さんの授業のサポートをさせていただきます。『先生』と呼んでいただいて構いません」


 天崎先生とは違って、声が低く、丁寧で落ち着いている印象だ。

 やはりガーディアンであるだけあって、戦いが得意なのだろう。そんな雰囲気だった。


「さあ、僕たちと仲良くなるのは急がなくていいので……皆さんお待ちかね! ガーディアン、配っちゃおっかな〜」


 やっと、貰える!

 クラスの1部が、少し盛り上がったのを感じた。


「よく聞いてください。ガーディアンは、今から配るカードの中に入っていて、胸の前にかざすことで呼び出すことができます。ガーディアンの変更は、できません」


 先程、天崎先生がやっていたようにすればいいのだろう。


「う〜ん、僕から話しても面白くないので……最初の宿題! 今日、家に帰ったら、ガーディアン本人から説明を受けてください。何を教えてくれるかは、家に帰ってのお楽しみ」


 この先生は、かなりいい人かもしれない。


「では、順に名前を呼びますので、こちらへ来てください〜」


 心臓の音がよく聞こえる。


「……舞月律さん〜」

「はい!」

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 ガーディアンを受け取り、席に座った。

 カードを見ると、そこにはガーディアンの顔写真が載っていた。


 ……女性?


 濃い紫色のロングヘアで、優しそうな印象の女性だった。

 僕は、ほぼ全てのガーディアンが、天崎先生のガーディアンのような、強そうな男性であるものだと思い込んでいた。

 だが実際には、ガーディアンには女性もいるようだ。


 先程までとは違ったワクワクを抱えながら、僕は時間が流れていくのを待った。



――放課後

 ガーディアンを貰ってからの記憶はほぼなく、ただガーディアンを楽しみにしていた。

 放課後になり、僕は全力で走って家に帰った。


「ただいま!」

「おかえり〜、どうだった?」

「ごめん、ガーディアンとお話したいんだ。後で話すね!」


 家族にはそう言って、手を洗い、すぐに自分の部屋へ向かい、ベッドに座った。

 さあ、ガーディアンとの対面だ。


「はぁ……」


 呼吸を整え、胸にカードをかざす。


「わぁ……」


 すると、目の前に、カードの写真通りの女性が現れた。




「初めまして、舞月律くん! 今日から、私が律くんのガーディアンを担当します」




 ガラスのように透明で綺麗な声で、彼女はそう言った。

 黒い服を身にまとっていて、背が高く、美しい女性だった。


「え、えっと、よ、よろしく、お願い……」


 思うように声が出なかった。

 彼女の目を見て話すことすらもできなかった。


「こちらこそ、よろしくね。……緊張しちゃうよね。大丈夫、ゆっくりお話しよう!」


 彼女は、そう言って僕の隣に座った。


「私のことは……カレン、って呼んでほしいな。カレンお姉ちゃん、でもいいよ!」

「カレン……さん」

「カレンお姉ちゃんでも、いいんだよ?」

「カレンさんって、呼ばせてもらいます……」


 お姉ちゃんと呼ぶのは、失礼だと感じた。

 それに、ちょっと恥ずかしかった。


「そっかぁ。じゃあ私は、律くんって呼ぼうかな? それとも、りっくんがいい?」

「律くん……でいい、です……」

「はーい! りっくんね!」

「え?!」


 ……カレンさんに、誤解されてしまった。

 声が小さすぎたのだろうか。

 それもそうかもしれない。先程からずっと緊張していて、上手く話せない。

 ちゃんと、話さないと。

 そう思い、カレンさんに簡単な質問をすることにした。


「カレンさんは、どんな風に戦うんですか?」


 ガーディアンに女性のイメージがなかったため、カレンさんの戦い方がとても気になっていた。

 とはいえ、ガーディアンである以上、かっこいい戦い方はできるのだろう。


「あー……りっくん、あのね」


 カレンさんは、少し下を向いて、申し訳なさそうに言った。


「私、戦いは得意じゃないんだ」

「え?」

「ごめんね、ガーディアンなのに。がっかりさせちゃったかな」


 戦いが、得意じゃない……。

 だから、がっかり……?


 ――そんな訳、あるはずがない。


「……謝らないで、カレンさん。別に、戦わなくたっていい! ずっと僕と仲良くしてくれたら、僕はそれで十分だよ!」


 カレンさんが落ち込んでいる姿が、見ていられなかった。

 だがそれ以上に、ガーディアンだから、という勝手な自分のイメージをカレンさんに押し付けていたことが、非常に申し訳なかった。


「カレンさん、ごめん。こんなこと聞いちゃって」

「りっ、くん……?」

「ガーディアンとか、なし! 今日から、カレンさんは僕の友達。改めてよろし……あ、敬語!」


 調子に乗ってしまった。

 年上の女性に、敬語もなしに話をするなんて……

 先程から、カレンさんに対して失礼すぎるかもしれない。


「ふふ、ありがとう、りっくん。私、すっごく安心した」


 そう言って、カレンさんは優しく微笑んでくれた。

 カレンさんには、笑顔が良く似合っている。



「アぁ、ココ、イイニおイガ、すルぅ……!」



 突然、外から不気味な声が聞こえた。


「な、何?」

「か、灰魔かいま……」


 灰魔……?

 もしかして、あの化け物のこと?

 そのとき、カレンさんが暗い表情を浮かべた。


「カレンさん、待ってて」

「り、りっくん!」


 気が付いたときには、既に僕の足が動いていた。

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守り守られ、ガーディアン つきまる @tsukimaru_poyopoyo

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