既知との遭遇

「ぜ、ぜぇ……はぁ……こ、ここまでくりゃ大丈夫だろ……」


 どれくらい走ったのか、肩で息をしながら振り返ってみた所ゴブリンが追ってくる様子は無かった。全く、危うく開始直後にガメオベラってしまう『残念! 私の冒険は終わってしまった!』になる所だった。


「ところで、ここ何処だ?」


 尚別の意味で危機は脱せていない模様。余計に迷ったじゃないのこんちくせう。

無我夢中で何処をどう走ったのかわからないのでもう戻れない。これどうしろと詰んだ

 幸いにも荷物は置いてこなかったが、入ってる物は薄い本とか後僅かな食料と飲料。食料は……まぁキノコとか、最悪雑草その辺の草を食べるしかないが、飲み水だけはどうにかしないといけない。既に全力疾走した後なのでこれから喉が渇くに違いない。何処かに飲める水は無いか。いかん何かもう足取りが重くなってきた。きっと走ったせいで……えっと、ほら、あれだよあれ、溜まってきてるんだよ。ストレッチパワーじゃなくてほら、乳酸とか? 後疲れとか。足攣りそうな感じするわーこれきっと水分不足からだわー。何かでそう聞いたから間違いないわー。

 だがここは異世界。それは十分理解している。水道とか贅沢な事言いません。何処か近くに井戸か……水分豊富な果物は無いでしょうか? 駄目だ、周辺には卑猥なキノコしかねぇ。後食ったら巨大化しそうなのと1アップしそうなの――いや、これはむしろ一機失う毒の方か?

 最悪泥水だろうと啜って……いや、それは本当最後の手段で。お腹ポンポン痛くなってしまう。


「……ん? あれ?」


 歩いていると、木々が無くなり開けた場所が見える。その先にあるのは――


「……川、か?」


 見間違いかと目を擦ってみるが、どうやら間違っていないようだ。


「川……川じゃああああ! 水ぅぅぅぅぅぅ!」


 両手を挙げて川に駆け寄った。疲れ? ンな事言ってる場合か! 水だぞ水!

 流れる川は日本のドブ川と違い、山奥の清流の如く澄んでいる。これ絶対飲めるやつや、と顔から突っ込んで勢いよく飲み始めたそりゃもうゴックゴクよ


「い、生き返った……」


 味とかないのはわかるが、冷たくて美味かった。美味すぎた。冷静になった頭に『そういや川の水とかって色々菌とかいるからいきなり飲んだら高確率で腹下すんじゃなかったっけ?』なんて事が過ったが些細な事誤差だよ誤差!深く考えない事にした大した事ねぇよ!


 さて、持っているペットボトルに水は入れるとして、これからどうするか。少し冷静になって考えてみる。

 さっきの所に戻るにも、もうここが何処だか、目覚めた場所スタート地点が何処だかも解らない。

 この川を拠点として、周囲を探索すべきだろうか? しかしさっきのゴブリンの様にモンスターと遭遇した場合、どうすれば良い? 対抗手段は皆無だぞ? 穏便に解決する為の暴力を持っていないんだぞ俺は?


「……ん?」


 そんな事を考えていると、何か聞こえてきた。ゴブリンが追って来たのかと身構えるが、何やら話し声のような気がする。


「――!」

「――!? ――!」


 耳を澄ませると、やはり話し声のようだ。動物の鳴き声とかではなく、会話をしているような感じの声。

 今度こそ、今度こそ第一原住民この世界の人間との遭遇だよな!? あ、でも現地の言葉とかどうなるんだ? 翻訳スキルとか無いけど、どうしたらいいんだろうか? コンニャクとか無いのか? 味噌味の奴。

 そんな事を考えている内に、声がドンドン近づいてくる。そして、が森から飛び出してきた。


「川……川があったンゴぉ!」

「んんっ! 川ですぞ! 川に間違いないですぞ!」


 飛び出してきたのは、2人の男。1人は小太りで、もう1人はガリノッポ。背にリュックを背負っており、中から見知った多分ポスターがはみ出ている。後ギリギリを攻めた卑猥な絵柄の紙袋。

 凄い見た感じの格好だった。ついさっきまで居た所某ビッグサイトで散々見た人種そっくりの格好だった。

 俺も思わず叫んだね。「――ヲタ同類かよ!」って。


――救いは無いんですか?

 

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異世界転移したようだがもう駄目かもわからん 高久高久 @takaku13

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