九郎ちゃんの怪談話

玄栖佳純

第1話 鶴岡八幡宮

 こんにちは。

 みなもとの九郎くろう義経よしつねです。今回はボクが義経ボク に関わりのある場所の怪談話をしてみようと思います。


 ボクが言うのもなんですが、鎌倉は出るらしいです。

 霊感が強い人たちが言っていましたが、昼と夜ではまったく違う景色が見えるそうです。昼間も人がたくさんいますが、夜は別の種類の人たちがたくさんいるそうです。時代が変わる感じがして、お祭りみたいに華やかになるそうです。


 人が集まる鎌倉ですが、ボクはしばらく鎌倉に行けませんでした。

 行こうとすると、なんか止められる感じがして。

『ああ、これ、行かない方がいいんだな』という感じでした。


 アレですね。腰越状の話(1185年)があってから、満福寺から東に行って鎌倉に入るの気が引けちゃいます。トラウマって言うんですか?


 でも学校の遠足で行かなくてはいけなくなって、

『え? 行ってもいいの?』とかって思ってました。

 ただ、遠足は昼間に行くので、普通の観光地でした。


 見える人には昼だろうと夜だろうと見えるんでしょう。すんごくよく見える人は、幽霊なのか生きている人なのかわからないくらいにはっきりと視えるらしいです。


『この人、どっちなんだろう』と思って、じっと見ちゃうとよくないらしいです。

 耳元で『あなた、視える人ですね』という声がして、大喜びでついてきちゃうそうですよ。


 幽霊さんは気づいて欲しくてたまらないらしいです。だから、幽霊だって気づいたら、すぐに視えないフリをするのがいいらしいです。それが間に合わないこともあるとか。


 幽霊さんは、昔は生きている人間でした。だから、人としての感覚がけっこう残っているらしいです。死んじゃっていつの間にかずっと一人になってしまって、生きている人に無視されてしまったら寂しいですよね。


 だから、とっても霊感が強いってバレると困るそうです。

 その後、それを外すのが大変になるそうです。


 その人は「外し方がわからない」って言ってました。生まれつき霊感が強いけど、霊の対処法も自己流だそうです。生きている人に霊感の相談はしづらいです。そっちの方が面倒くさくなるこもあります。その人は幽霊が満足していつの間にかいなくなるのを待つしかないらしいです。

 だから「家まで着いてきちゃうと嫌だ」って言ってました。


 ボクは見えない人なので大丈夫です。

 でもボクはほら、義経でしょ? 鎌倉に行こうものなら視えなくてもついてきちゃうらしいんですよ。だから鎌倉には行かない方がいいらしいんですよね。霊感が強い人が言うには。


 でも遠足の場合『行きません』って言えないです。

『オバケが憑いてきそうだから行きたくありません』なんて言ったら先生に怒られます。そもそもボクには視えないんだから、ホントのことを言ってるわけでもないので。

 言われるだけで、その自覚がまったくないんです。


 遠足は電車で行きました。班ごとに行動していて、コースは自分たちで選べました。いくつかあるチェックポイントを3つ回ればいいという遠足でした。ボクの班は鎌倉駅で降りて、ひとつめのチェックポイントの鶴岡つるがおか八幡宮はちまんぐう(八幡様)に行こうとしていました。


 鎌倉駅に着いて、八幡様へ向かう段葛を歩いていました。ボクの班のメンバーは真面目な人が多かったのか、小町通で買い物はせずに、歴史を感じたいとのことで桜並木のある段葛を通りました。秋だったので桜は咲いてませんでしたけど。


 スマホに電話がかかってきました。大した用事があったわけでもなくて、たまたまだったらしいんですけど。なんでたまたま遠足の途中で電話がかかってくるんだって話ですよね。


 その人はさっき話したとっても霊感が強い人ではなくて別の霊感がとっても強い人で、この人は修行をしているらしくて自分でとり憑かれた幽霊を外すことができるらしいです。


 まったく関係ない用事でかかってきたんですけど、その話の途中で

「なんか乗ってるみたい」って言ったんです。

 遠隔でも電話でつながると分かるらしいです。すごいですよね、文明の利器。


「なんすか、それ」って聞いたら、

「乗りやすい人が来たからたまたまついてきたらしいよ」と言ってました。


 でもボクにはまったくわかりません。

「背中に乗っている」と言われましたが幽霊です。重くなっているわけでも鏡に映して見えるわけでもないんです(そう言えば、鏡に映してみたことないかもです。怖いから絶対にやらないけど)。気分が悪くなるわけでも、それまでと何も変わらないです。


「そのうち外れると思うから、乗せてってあげて」と言われました。

 そんなこと言われても、外し方なんて知りません。そう言うと、

「降りたい場所に来たら勝手に降りるから」と言ってました。


 その後は、気にせずに鎌倉の遠足を楽しみました。

 観光スポットで写真を撮ったり撮られたり。いっぱい歩きましたが楽しかったです。


 遠足が終わって数日して、班の人が紙に撮れた写真を持ってきました。その人はやや霊感が強い人で、面白いからと言って使い捨てカメラで遠足の写真を撮っていました。


 カメラ屋さんで現像された写真を一枚だけポンと見せられて

「これ、原因お前らしいんだけど」と少し怒った様子でした。


 八幡様にある源氏池の中にある弁天様のお社へ続く橋の真ん中でボクが撮った写真です。写真を持ってきた人が映っていたのですが、昼間だったのに薄暗くなっていて、微妙な表情をしていて、その人の後ろから手が伸びてました。

 肌色をしていてどう見ても手です。その人は橋の欄干のすぐ前にいて、後ろは池です。人が立っている様子もなく、手だけが後ろから伸びてきています。


 ちなみに他の写真はその写真よりもずっと明るかったです。同じような時間に撮ったはずなのに、その写真だけ日が暮れた後のような明るさでした。


「責任取って引き取れ!」と言われましたが

「ボクが映ってない写真、いらない」と丁重にお断りしました。


 その後のことは知りません。

 霊感が強い人にこの解説を聞いたけど、わからないそうでした。

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