第9話

 ゴールデンウィークが明けて、中間テストも近づいてきた今日この頃。


 クラスでは早速五月病患者共が嘆きの合唱を披露している。


 過ぎ去ってしまった休日を嘆く者と、友達に会えてテンションを上げている者がいる中、俺の目の前にいるのは――


「友治、今日は放課後どこ行く?」


「前に恵麻が行きたいって言ってたカフェなんかどう? ゴールデンウィーク中、結局手が回らなかったし」


 甘々イチャイチャを見せつけてくる友人と知り合いだった。


「お前らせめて場所くらい考えてもらえる? 佐々木お前クラス違うだろ、教室遠いんだから、毎回来ていたら次の授業に遅れちまうぞ」


「茶々入れないでよ。私たちの関係に嫉妬しないでよね」


ちげぇよ! 鬱陶しいって言ってんだよ!」


 あの日の告白の結果は見ての通りだ。ゴールデンウィーク中に初デートも済ませたらしい。そして、学校のある日は毎日これだ。少ない休み時間を縫って度々イチャついている。


 てか中間テスト近いんだからデートなんてしていないで勉強しろ!


「二人ともケンカするなよ」


「ケンカじゃねぇよ。俺は良識的な一般人としてだな」


「慎介」


「あ?」


「ありがとうな」


「……そう思うなら少しは周りに遠慮しろ」


 まぁあれだ。雨降って地固まると言うか、終わり良ければ総て良しと言うか、丸く収まって何よりだ。


「おい植主! 達!」


 まだ休憩時間は始まったばかりだというのに、担任の先本先生が俺たちを名指しで呼び、向かってくる。


「いいかげん部活は決めたのか? 期限ギリギリだぞ?」


「先生、朝のホームルームでも言われたからわかってますよ。少しは考えさせてくださいよ」


「一ヶ月丸々猶予は与えているんだから、もう答えが出てないといけないんだよ!」


「そうは言っても……なぁ?」


「高校生活に多大な影響を与える選択。そんな簡単に決めろって言われても……ねぇ?」


「だったら友治、手芸部に入りなよ。そうしたら放課後毎日会えるし。あ、慎介は別に来なくていいから」


「心配しなくても入らねぇよ」


「俺も、そりゃあ毎日恵麻と一緒にいられるのは嬉しいけどさ、そんな生半可な気持ちで部活に入ったら一生懸命やってる人に申し訳ないし」


「いやもうどこでもいいから入ってくれよ……」


 先生からため息が漏れる。気持ちはわかるけど、俺たちにとっても今後の高校生活に係わる問題なのでね。


 どこかにいい部活動はないものか……


「植主君いるかな?」


 聞き覚えのある声。同時に、あんまり関わりたくない声が聞こえた気がした。


 それは間違いじゃなかったようだ。クラスメートに大声で名前を呼ばれ、その声に振り向くと、そこには俺を呼ぶクラスメートと、その隣に染川先輩がいた。


 先輩は俺が向かうよりも先に、一年生の教室に躊躇なく入って俺の目の前までやって来た。


「久しぶりだね植主君。ゆうちゃんと恵麻ちゃん。それに社先生も」


「染川、二年生が一年生の教室に堂々と……」


 先生の言う通りだ。先輩の突拍子の無い行動のせいで俺も変な注目をクラス中から浴びている。


「で、何です先輩」


「えっとね、植主君に頼みがあってね。実はこの間のゆうちゃんと恵麻ちゃんの件を友達との話題に……あ、もちろん個人の詳細はぼかしたよ。

 それで、気になる人との間を取り持って恋愛を成就させてくれる一年生がいるって話をしたら、至る所で尾ひれの付いた話が広がって、今二年生の間ではちょっとした話題になってるの」


「そりゃぁ、発信源のあなたが最初から身に覚えのない尾ひれがついた状態で勝手に放流したんだから、めちゃくちゃにもなるでしょうよ」


「で、その恋のキューピッドに手を貸してほしいって人たちが、噂の発信源である私の所に押し寄せてきちゃって。その一年生に会わせろって。だからさ、みんなの恋も成就させてくれないかな?」


「嫌ですね。つーか無理です」


 先日のは二人が俺の知り合いで、且つ、お互いに両想いだったからできた芸当だ。こんなことそう何度もできることじゃない。そうじゃなくても、もう他人の恋愛事に首を突っ込みたくはない。


「そこを何とか! ね?」


「無理無理。俺部活探さないといけないし」


「そうだぞ。植主はさっさと入る部活を決めないといけないんだ。他の生徒の恋愛事情に首を突っ込んでいる時間はこいつにはない」


「ふ~ん。ねぇ、もうどこの部活に入るか、目星はついてるの?」


「いえ、まだ。ピンとくる部活が無くてね」


 俺がそう答えた瞬間。染川先輩の口元が怪しく、不気味に歪んだのが、酷く印象に残っている。ここで俺は完全に答えを間違えたんだ。それに気づくのに、そう時間はかからなかった。


「だったらこの活動を部活にしてしまえばいいんだよ。《恋愛相談部》」


「はぁ?」


「私が部長に立候補してあげる。だから植主君は存分にみんなの恋愛に向き合ってあげて」


「いやいやいや、おかしいでしょ。そんな話通るわけが……」


「できるぞ。丁度教室も空いているし、二年生が部長を務めてくれるのなら安心だ。幽霊でもいいなら、俺が顧問になってやってもいい」


「は!? ちょっ……」


「《恋愛相談部》か……面白そうだな。だったら俺もその部活にしよ」


「友治が入るなら私も。手芸部と兼任で」


 俺の意見そっちのけで、次々に話が進んでいく。抗いたい。が、もうどうあがいてもこの流れを変えられそうにはない。


「これからも楽しませてもらうね♪」


 こうして、《恋愛相談部》と言う名の同好会が設立され、俺も強制的に部員として活動することになった。なってしまった……


「どうすんだよこれ~!?」

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どうも、恋のキューピッドやらされてます。 プレーンシュガー @puresyuga20

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