第8話
「――てこと」
「あぁ……あはっ……友治ぃ……」
録音した昨日のやり取りを聴き終わる頃には、佐々木は膝から崩れ落ち、涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
片や染川先輩は自身のスマホを操作している。図書室で待機させている友治を呼び出しているのだろう。そういう手はずになっている。
「今ここにゆうちゃんを呼んだから。後は若い者同士で」
そう言い残し、染川先輩は教室を出た。第二関門突破だな。
「はい、植主君。これ」
教室の外で隠れていた俺にスマホを返す染川先輩は、実に充実した表情をしていた。
「ありがとうございます先輩。こんなこと手伝わせてしまって」
「ううん。いいもの見せてもらったよ」
「本当はこんな第三者が一方の気持ちをバラすやり方、風情が無くて好みじゃないんですがね」
「それでも、拗れていた二人の関係を見事綺麗に繋ぎ直した手腕は、誇っていいと思うよ。私も好きな人ができたら、そのときは君を頼らせてもらおうかな」
そういってスマホの画面を目の前に突き出してきた。電話帳の欄に俺の名前が登録されている。いつの間に!? 俺のスマホも確認したが、案の定電話帳に《染川真紀》の名が勝手に登録されている。連絡アプリの方にもだ。抜け目がない。
「……いい性格してますね」
「誉め言葉。として受け取っておくね」
そんなやり取りをしていると、走ってはいけない廊下を走って友治がやって来た。
教室の手前で立ち止まり、汗を拭き息を整えると、覚悟を決めた表情で俺を見た。
俺は静かに頷く。答えるように友治も頷き、教室内へと足を踏み入れていった。最終関門は、お前次第だ。
「さて、俺はそろそろ帰るとしますか。染川先輩は?」
「この結末を見てくよ。君から作戦を聞いて、楽しみにしてたんだよね~」
「……本当、いい性格してるよ」
結果を知るのは明日でいい。今日くらい、あの二人だけの世界を浸らせてやろう。
俺はその場を去り、帰路へと着いた。
そして、まだ家まで半分以上残した地点で友治から連絡が入った。あの野郎、せっかく今日ぐらいはと気を使ってやったのに……まあいい。最終関門の結果は――
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