第3話 自我の芽生え

 すごい歓声、ライブ・・・フェス?

何万人もの若い男女。私はステージから少し離れたところにいる。

また曲が始まった。すごい音量で耳がおかしくなりそうだ。

 手首にいっぱいアクセサリーが巻かれている。

胸元にも龍か蛇のシールが貼ってあるようだ。

違う刺青だ。ブーツにもドクロのマーク。

趣味悪。これはきっと最初の不機嫌なちび女だろう。

何となく配役が読めてきた。


どうしても確かめたくなって、近くにいた女に鏡を借りた。

切れ長の目をしたミステリアスな女だった。

笑うと可愛いし、いい匂いがした。

なぜか少しドキドキした。


鏡の中にいたのは、やはりあのちびだった。

女が一緒に鏡を覗き込みながら話しかけてきた。

「ドラゴン・・・・すげーいいじゃん。

何処で彫ったの?」

「知らない。忘れちゃった。」

「そのブーツ、レアだし高いやつだよね。」

「そうなの?知らなかった。」

「よかったらこれと交換しない。

これも高いしコブラのマークがいけてるんだ。どう?」

「ごめん、急いでるから。またね」

「そっか。・・あっそうだ、これあげる。

私の作ったアクセサリーだよ。」

「ありがと。私。あんたのこと好きだよ。」

「私も・・・・また会いたいね。」


初めて自分の意思で時間を使った。

あんな友達が欲しい、と思った。


 私はステージの横に向かって歩いた。

そして関係者の場所だ、スタッフや付き人マネージャーたちの中に

さりげなく入った。ステージは見えにくいが、すぐそばだ。

ギタリストが客を煽るために、前に来て身を乗り出した。


その時、青いシャツを着た女が何かをしようとした。

私は客席に飛び込み女に体当たりした。

周りから悲鳴が上がり、肉の焼ける嫌な匂いがした。

私も何処かに火傷をしたようだ。痛みは感じないが焦げ臭い。


ギタリストが驚きの目で私を見つめている。

気を失うと同時に私は消滅した。その時何処からか声が聞こえた。

「リカがしくじったす。」

「バカが。」

誰が誰と喋ってるの?私リカって名前何だ、趣味悪。



 川のせせらぎが聞こえる。

子供たちの騒がしい声と大人たちの怒る声。

キャンプ?私は子供たちの集団にしれっと入り込んだ。

っていうか私も女児。小学生3、4年くらい?

みんな大人の支持を待っている。

誰もおしゃべりをしていない。

強面の男が一人やってきた

「今からカレーを作ります。

決してふざけたり、喧嘩したりしないように。

火傷すると大変だからね。

でも体験するためのキャンプだから、いろいろやってもらいます。」

私は水筒の蓋を開けて、調理器具の土台に噴射した。

誰も気づけない。

 私はそのグループを離れて、別のグループに紛れ込んだ。


 生意気そうな女の子が中心になって他の子に話している。

禁止されている川辺に皆で行こうと。

綺麗な石があるから拾いに。

かなり威圧的な態度だ。

そこへちょうど女がやってきた。

「何の相談かな?みんな向こうに集まって頂戴。

料理始めるよ。」

 女が向きを変えて振り向く寸前に、足元に倒れ込んだ。

もちろんわざと。

「きゃ」

女が私を避けようとして、腰をねじりながら倒れた。

足をくじいたか、腰を捻ったか、

苦しそうに顔を歪めている。

他の大人たちがやってきて、肩を貸して帰って行く。

子供たちも慌ててついて行く。

 私はトイレに向かった。みんなの声がどんどん遠のいて行く。

これで終了らしい。よくわからないけど。


 気がつくと、大きなショッピングモールにいた。

休日なのか、結構な賑わい。

私は髪の長い美少女。やった、私のお気に入り。

ワクワクする。何をするんだろう。

粋がった男の子二人が私を見ている。

そりゃそうだよ、こんな美人、滅多にいないからね。

急いで後をついてくる。

私は急に振り向いて、驚かせた。

「何?」

一人は怯んで一歩下がった。

もう一人が私を見つめて、恋する目の輝きを放った。

「あっ・・・あの今一人?」

「そうよ。」

「よかったら、一緒に・・」

「一緒に何?」

「一緒に紅茶とか・・」

「紅茶?」


 その時私の視界に、一人の中年男が・・・・。

見たことある・・・・・キース・・・・間違いない。

背中を丸めて、洒落っ気もないので別人のようだ。

無表情で足取りも重い。

私の中で何かが壊れた。もう我慢できない。

「ちょっとごめん、また後でね。」

「後って、ここでってこと?」

「そうね。」

急いで走っている私の背中から、声が聞こえた。

「名前は?」

「あなたは?」

「ピート」


 今はそれどころではない。

可哀想なキース、何かしてあげたい。

さっきキースがいたあたりを見回したが、見つけられない。

見失った。

 もし見つけたとしても、どうするつもりだったのか。

私は今ビビではないし、ビビだとしてもどう説明するのか。

元気付けようにも何もないし、大体私は中学生だ。せめて美香かマリアなら。

・・うーんマリアは逆にちょっと歳がうえすぎるか。

ところでこの私は名前は?

あっそうだ、ピートのところに戻らないと。

私の役目を果たさないと。


私の姿を確認すると、満面の笑みを浮かべるピート。

「よかった。もう戻ってこないかもって思った。」

「紅茶飲みに連れてってくれるんでしょ。」

「あー。そうだ、そうだった。」


 派手だけど子供っぽい、そんなキラキラした店で、

どうってことのない会話を交わし続けた。

ピーターはこの辺りを仕切っている不良チームのリーダー。

高校生だけど、退学寸前。

「名前教えてよ。最近越してきたんだろ。

見たことないもん。あんたみたいな・・・・。」

「何よ、言いなさいよ。」

「綺麗な娘。」

「よろしい。私はミレーユ。14歳よ。」

「何処に住んでるの?」

「まだ決めてない。」

「じゃホテルに?親と?」

「いいえ。家出してきたって言ったら、驚く?」

「家出・・・捜索願とか出てんじゃねーの。」

「まさか、貧乏な私設の孤児院よ。

理由は何であれ一人でも減って喜んでいるわ。

メッセージも置いてきたし。」

「なんて?」

「恋人の所へ行くって。」

「恋人?」

「いないよ。嘘だよ嘘を書いたの。」

「なんか、強烈だよな、あんた。」

「そう言われると嬉しいわ。」

「それでどうするんだ、これから。」

「あら、あなたが何かしてくれるの?」


 しばらく黙った後、意を決したように立ち上がった。

「お前がもし・・ちゃんと・・俺の・・・。」

「女になったら、何をどうしてくれるの?」

「あの・・・。」

「心配しないで。私はどうにでもするから。

また紅茶ご馳走してね。」

私も立ち上がった。そして店を出た。

「待ってくれ。俺はどうしたらいい。

教えてくれ、何か欲しいものとか?」

「負担はかけたくないの。また連絡するわ。」

「どうやって?」

「だってあなたリーダーなんでしょ。

簡単に連絡くらいできるわ。」

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天使達の覚醒 久保アーツ @artskubo57

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