賛同者求む。とにかく賛同者求む。

浅賀ソルト

賛同者求む。とにかく賛同者求む。

すね毛を処理していない男性のハーフパンツは公共の場所では禁止という条例案が出されたとき、吉光市はちょっとしたニュースになった。

条例を出した藤木氏にはインタビューが殺到した。

「前々から問題だと思っていたんです。公共のマナーというものをみなさんに考えていただきたい。罰則はいまのところ設けておりません」

そこからの議論と妥協は斜め上をいき、条例案から〝男性〟が削除され——女性もすね毛は処理しろということです、とテレビのコメンテーターは笑っていた——、一方で、乳首が透けるシャツも禁止ということになった。

そこでまたニュースになり、海外のメディアからも、日本発のおもしろニュースということで各国の言語に翻訳されて配信された。

「建設的な議論だと思いますね。みんな口に出しませんが、あんなものを見せられるのは不快でしょう? 私はこれが支持されると確信しています」

支持されなかった。男性市議会議員の賛同がまったく得られなかった。

「まだまだ日本は男性社会ということです」

藤木氏はそのようにコメントした。

これを面白がる一部の層がいて、さらに国会議員にもこの需要があったらしく、自民党の公認を受けて国会議員選挙に立候補した。

「不快なものは不快と言う勇気が必要だということです。話の通じない人間とは話したくない。頭の固いエリートの言うことなど『うるせえ』と言うときがきたのです!」

当選した。

藤木議員の勢いは増し、さらに調子に乗ってきた。

やばい領域を軽々と踏み越えてきていて、どんどんアンタッチャブルになった。

「黒人とかキモいじゃないですか。ホモとかキモいじゃないですか。オカマだって、中国人だって朝鮮人だって。あと障害者もキモいです。あんなもん見るのも嫌だ」

最後に「死ね。死んでしまえ」まで言ったのだけど、それはさすがにピーが入った。もう全部ピーだとさすがに誰でも分かるレベルなのだが、一部の層にものすごく刺さり、ピーが薄れていったのだ。

「あと、日本に来て日本語話せない奴。来るからには日本語話せって思います。挨拶もできない外国人は日本に来るな!」

テレビでもネットでも日本は真っ二つだ。

藤木議員を叩けば基本的に世界は一つになるので、対藤木で何を語るかが重要なアピールになった。下手なことを言えないのだが、上手なことを言ってもメリットがあまりない存在である。

「ありがとうございます。みんな、周りの迷惑にならないように生きようという基本的なことができていません。自分勝手な人間は不要です。最低限の節度をもつことこそ、この国を守るために必要なのです。わがままは誰も幸せにしません!」

そうだ、そうだの大合唱と、誹謗中傷の野次が街頭演説では飛び交った。

藤木議員は美人というわけではなかったので、ブスだとデブだのといった野次も多かった。

といっても不美人というわけでもない。支持されるにはある程度容姿が整っていることも必要であり、藤木議員はそのラインを越えるくらいには見た目もよかった。

「ありがとうございます。藤木えりさ、藤木えりさに一票をお願いします!」

当選回数も伸び、やばい法律もいくつか通るようになった。

そして藤木議員はまたすね毛ハーフパンツの禁止法案を、今度は罰則つきで提出した。

廃案になり、選挙でも落選した。

人々は、そんなにすね毛ハーフパンツが嫌いだったんだねえ、私はそんなに気にならないけどねえとあちこちで雑談するのだった。


(読んで分かるとは思うが、本稿はブラックジョークであり、特定の何かを揶揄したものではない。「○○がモデルですか?」とか指摘されるとなんとも答えにくい。こういうのはヒトラーやもっと遥か昔の紀元前から、たくさんある事例なのである)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

賛同者求む。とにかく賛同者求む。 浅賀ソルト @asaga-salt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ