門番 それぞれの戦い

西園寺 真琴

第1話 門番_アナキール・パーゲート

「お前は何者だ?」


ここは暗闇に聳え立つ強固な門。例に漏れずここにも屈強な門番がいる。

アナキール・パーゲートは今日も門にやって来るものに怯えていた。

ここの門番の仕事は1日に数回来る来訪者の対応になるのだが、聞き分けの良いものがほとんどだが、時には文句を言ってくるものもいる。


なぜ文句を言ってくるものがいるかというと、それはこの門は基本的に一見は通れないからだ。

初めての来訪者は一度通過を拒否され、門番が本部に来訪の連絡をする。

その際には来訪者の姿形や出身地などの情報が本部に伝えられる。

門番の役割は本部への連絡が基本だが、来訪者の中には無理やり門を通ろうとする者もいる。


このような来訪者に対して門番は行手を阻み、門を通れない理由を伝える。

その後本部に連絡をとり、来訪者に開放可能時刻を伝え、その時刻に再度訪れるように伝える。

そして来訪者が再度訪れた時に本部の許可のもと、門を解放して来訪者を通す。


これだけ聞くとそこまで厳しい仕事ではないように思えるが、この来訪者が一筋縄ではいかないのである。


来訪者が訪れ、本部に連絡し開放可能時刻を来訪者に伝える。そして来訪者が再度訪れた時に本部に許可をとり門番が門を開放する。

この基本的な流れを遂行するために、門番は来訪者と本部への架け橋となる。

来訪者の情報を正確に本部に伝え、本部には開放推奨時刻を伝える。

開放推奨時刻とは、来訪者の状況から緊急度合いから判断されるものである。


来訪者によっては伝えた開放時刻に不満を持ちその場で無理やり通過しようとするものもいたり、伝えた開放可能時刻よりも前に来て無理やり通過しようとするものもいる。

門番は来訪者とのやり取りの中で、この来訪者が開放可能時刻にきちんとやってくるかどうかを判断するのである。



一.10月14日

お前は何者だ。


アナキール・パーゲートは今日も来訪者に問う。

「私はベン・カイラックと申します。」

今日の来訪者は大丈夫そうだ。体格も良くとても凛々しい佇まいだ。

本部にも余裕がありそうだと伝え、解放可能時刻を来訪者に伝える。


「分かりました。では2時間後もう一度伺います。」

ベンはそう言うと門を後にする。


2時間後、時間通りにベンが門に再来訪してきた。

アナキールはそれを確認して本部に再来訪の旨を伝える。

やってきたベンに1,2分待つようにと伝える。

「1,2分ですか、、分かりました。。」

1人膝をつき合わせながら、そして門を見上げながらベンは待つ。

初めにやってきた時よりは少し覇気がなくなってる気がするが、それでも辛抱強く待っている。

待っているベンを見守っていると、本部から連絡が入る。

アナキールはそれを確認すると、門を緩めてベンを通す。


「ありがとうございました。」

ベンはそう言うと、少し小走りで門を通って行った。



二.1月21日

お前は何者だ。


アナキール・パーゲートは今日も来訪者に問う。

「うち?ユンチル・チョウイっていうんだけど?」

この来訪者は少し雰囲気が緩い感じだな。

アナキールは早めの解放推奨時刻を本部に伝える。


そして本部からの解放可能時刻をユンチルに伝える。

「えー、30分もまってらんないよー。いいじゃん、もんあけてよー。」

ユンチルはそう言うと、するすると横からすり抜けようとする。

最近こういうのが多くなってきたなと、アナキールは気持ちをきゅっと引き締めてユンチルを押し戻す。


「ふん、じゃあそのへんで時間つぶしてくるよ。」

ユンチルは観念したのか、門を後にする。

アナキールはふぅ、と一息ついて門の前に腰掛けた。

少し引き締めすぎたのか、そのままうとうとと船を漕いでしまう。


いかんいかんと自戒して立ち上がると、遠くからユンチルの姿が見える。

まだ解放予定時刻には10分以上時間があるから、どうしたのかと声をかける。

「いやさ、もういいかなーとおもってきちゃった。ねぇ、とーしてよ。」

まだ解放時刻ではないと突っぱねると、ユンチルは先ほど同様アナキールをすり抜けようとする。

少し気を抜いていたアナキールを躱し、ユンチルは門に手をかける。


アナキールは慌てて本部に連絡を取り、ユンチルを引き戻そうとする。

しかし、ユンチルは柔軟な身体をうねらせてアナキールの腕を掻い潜っていく。

そのままユンチルは門に手をかけ、腕を門に通していく。

「ほら、うでがはいったからもういいでしょ?とーしてよー。」


腕の侵入を許してしまったが、まだ入り口付近に留めている。

アナキールはこれ以上入られると、取り返しがつかないことになる。

本部が出先だとなおさらだ。

これまで以上に気を引き締めてユンチルの進行を食い止める。


そこにようやく本部から解放可能だと連絡を受けて、アナキールは手を放してユンチルを見送る。

「門番さんじゃねー。楽しかったよー。」

こちらの気持ちも知らずに、ユンチルは走って門を去っていった。


三.8月16日

お前は何者だ。


アナキール・パーゲートは今日も来訪者に問う。

「ゲイリー・キスパート。いや、そんなこといいからここ通してよ!」

来訪者は質問に答えずにものすごい勢いで門を突破しようとする。


いきなりやってきたゲイリーと名乗る来訪者は、アナキールの制止を振りほどき門を通ろうとする。

アナキールは本部に緊急連絡をし、すぐに門の解放準備を要請する。

しかしすぐには解放できないと連絡があり、5分待つように指示をされる。


「5分?そんなに待てるか!」

本部からの指示を伝えても、ゲイリーは聞く耳を持たずに構わず突破する。

必死に食い止めるも、津波のように押し寄せるゲイリーになす術もなく、アナキールは門を突破されてしまった。


本部からは、もういいんだ、と連絡が入っていた。



四.5月11日

お前は何者だ。


アナキール・パーゲートは今日も来訪者に問う。

「私はイオ・ナラキタ。通行許可証なら持っています。通してもらってもよろしいですか?」

通行許可証とは、門を通っても害のないという証である。

しかしアナキールは違和感を感じていた。


この来訪者は佇まいも言葉遣いもしっかりしていて印象がとても良い。

だが有無を言わさない言葉で、それを丁寧な言い回しで飾っている気がした。

念のため本部に確認しようと、イオに待つように伝える。


「許可証持ってるのに確認がいるのですか?」

明らかに不満そうにイオは尋ねる。

アナキールは宥めながら本部に確認する。

すぐに解放許可が出たので、アナキールは門を開放した。


「ありがとうございます。」

少し語気を強めて、イオはスタスタと門を通過していった。


しかしそのすぐ後、本部から詰め所に連絡がきた。

本部から連絡が来るのは珍しい。

嫌な予感を感じながら、アナキールは応答する。


「先ほど通過した来訪者だが、許可証は偽造されたものだった。本来は然るべき手続きのもとに通過させなければならない来訪者だった。」

本部にも過失があったということで特にお咎めはなかったが、アナキールは自省する。


不自然さは感じていた。心の内を隠すような言動。

今回は事後の対応が可能な環境だったから特に被害も少なかったが、もし違っていたら。

本部にもその違和感をしっかり伝えていられたら。


アナキール・パーゲートは明日も門番をする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

門番 それぞれの戦い 西園寺 真琴 @oguchan41

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ