第2話 神様からの説明①





「いや〜、焦った、焦った。いくら私が介入できる時間が少ないとはいえ、貴重な人材を一人失う所だった。」


 自分のご機嫌取りをした後――といっても、かかった時間はほんの数分くらいである――最初に告げた言葉が全能神のそれであった。


「さて、本題に入ろう。君たちが死んだ要因となった雪崩や吹雪などは自然的な現象ではなかった。私は一万年前に起きた問題で重症を負ってしまい、つい最近まで私が直接管理している世界以外の観測が不可能だったの。まぁ、観測が可能になったとしても世界はたくさんあって、その一つ一つを同時に細かく見れるわけではないから、未然に防げたのかと言われると難しいんだけどね。ただ、君たちの世界はとある事情で細かく観測して調べなければならないことがあったのよ。その結果、偶然この不祥事が見つかった。ただ、これはもう起きた後であったため、君たちの謝罪とお詫びは君たちを元の世界で蘇生できるまで、私が直接管理する世界に招待しようかなと思ってね。」


 何となく理解できた。要は『死んだ原因が神族側にある』、『お詫びに蘇生したいけど何かしらの理由で現状は蘇生不可』、『よって蘇生が可能になるまで、全能神自らが管理する世界に招待』ということなのだろう。


「はい、はい、は〜い!その世界には魔法とかありますか?」

「それ必要・・・・・・」

「魔法はあるよ。ほとんどの魔法は神族が創り出したのではなく、“人”が創り出したものだけど。」


「人間や神以外にも異なる種族は存在しますか?」

「いや、さぁ〜・・・・・・」

「存在するわ。君たちのような人間族や私のような神族の他にも、動物の特徴や能力を持つ獣人族、基本的に森の奥に住むエルフや鉱山の近くに住むドワーフなどを含めた妖精族、妖精族と高い親和性を持つ精霊族、神族の次に強い龍族、そんな竜族の血を持ちながら人間と似たような姿しかとれない竜人族、あとは主に私たちに仕える悪魔族や天使族、それから巨人族や魔族、吸血鬼族、夢魔族などなど様々な種族がいるよ。ちなみにだけど、その世界において、それらの全種族をまとめて“人”というから気をつけてね。“人”と人間族はイコール関係ではなく、“人”の中に人間族を含まっているという認識だから。」


「神になることはできますか〜?」

「それは・・・・・・」

「ん〜、可能か不可能かと言われれば可能だけど、ほぼ不可能に近いよ?神になるためには何かしらの挑戦権が必要だから。例えば、神族以外が神器や神秘魔法を扱えたり、“王”がいない現状では最高権力機関である神王議会の承認が必須であったり、様々な条件があるから。」


「“王”とは何ですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「あぁ、私のような〈古き世代〉が言う“王”は『世界の王』のことよ。または、『神王議会序列第0席“人”の王』。そして、【世界最強】の称号を持つ者。神族の王である私と唯一互角に戦えた規格外。彼が本気を全力で出したら私でも負けるかもしれないわね。まぁ、その前に世界が耐えきれずに崩壊するのだけれども。」


 矢継ぎ早に質問されていく全能神を見ながら、自分はふと思ったことを告げた。


「その世界で自分たちに何をしてほしいのですか?」


 ある意味核心を突いた質問。小説などによく出てくる使命や役割など、召喚にわざわざ介入して自分たちを送り込むということは何かしらの期待があるということだろう。


「いや、何も。強いて言うなら『死なないでくれ』。死んでしまったら元の世界に帰すことができなくなる。一応、蘇生を行える魔法は存在するが、どんな使い手であっても死後72時間以内でないと蘇生ができない。神族であっても例外ではない。だから、死なないでくれ。はただそれだけだよ。」


 その言葉に嘘はないと思う。何故なら、それほどまでに真剣な目であったからだ。 しかし、唯一引っかかるとすれば、


「『全員に対する』『私からの望み』ということは、『私たち個人個人に対して』と『貴方以外の者たちからの望み』が存在するということですか?」


 全能神は悩んだ顔を少ししてから、


「えぇ、神族全体の望みは『敵対陣営に対抗するための戦力増強』、貴方たちを召喚する者たちの望みは『自国の戦力増強』、そして貴方たち個人個人に対しては『貴方たちに与えられる【職業】に沿った行動をしてほしい』という願いがあるわね。」


 そう告げたのであった。


「これから長くなってしまうけど、貴方たちが召喚される世界について簡単に説明するわね。なるべく質問は受け付けるつもりだけど、重要性があまりないもの、国の歴史とか、宗教とか、ルールとかについての詳しいことは向こうで調べて頂戴。君たちの召喚は各国の王たちが望んだことだけど、バラバラに召喚すると神王議会が定めた法の穴を突くようにして違反を犯す者がでないように異世界人の召喚場所は教会に限定させたから、召喚された者たち全員の引取先が完全に決まるまでの数日間はそこにいられるはずよ。今回はこの規模だから最低でも5日〜10日はかかると思う。だから、それまでの間に教会内にある図書館に行って調べたり、専門的な知識を知れる国に引き取ってもらったりすることを推奨するわ。ちなみに、それ以上に詳しいことを知りたければ私の神殿か『叡智の館』、もしくは神王議会を行う場所などに来てね。場所は秘匿する決まりだから教えられないから自力で見つける必要があるけどね。」


 そう言いながら、つい先程までの真剣な表情を崩して、その前までのにこやかな笑顔に戻した。恐らくその笑顔が彼女の標準状態の顔なのだろうと自分は思った。


「まず、世界には私たちが付けたラベルのようなものが存在するわ。それらは創られた成り立ちや背景、目的などによって分けられているの。君たちが召喚される世界は私が最初に創った汎用世界の一つであり、そういった世界の総称を私たちは『第一世界』などと呼ぶわ。大体の世界は、その『第一世界』から世界が誕生したり、創られたりするのよ。分かりやすく言うなら、君たちの世界にある小説。あれらが新しく作られる毎に新たな世界が生み出されると思っても良いわよ。実際にそうしてできた世界がいくつも存在するから。そして、それらの世界を総称して私たちは『第二世界』などと呼んでいるの。ちなみに、君たちの世界はちょっと特殊で、とある事情と目的のために創られた世界なのよ。私たちはそういった特殊な世界を総称して『特異世界』と呼ぶのだけれども、貴方たちの世界は、その『特異世界』の中でも殊更に特殊な世界で、神族が存在の消滅を代償に作り上げた世界。だから、本来なら中級以下の神族は立ち入るどころか認識さえできないはずなのよね。あぁ、そういえば君たちが死んだ要因について話していなかったわね。ここまでで質問したいことはある?」


 そこで一旦話を区切るように全能神は一泊置いた。

 ここまででも何点か気になる箇所があったが後で調べようと思う。ここでは、


「私からは3つ質問があります。私たちが召喚される世界自体の固有名詞はないのですか?それと、その教会や国などは安全なのでしょうか?最後に『汎用世界』について詳しくお願いします。」


 誰も尋ねる様子がなかったので、自分で聞くことにした。


「世界の固有名詞はないわ。何故なら、世界の数が膨大すぎるから。『第二世界』のように小説などによって創られた世界なら、その題名などが世界の名前になることが多いけど、私が直接創った『第一世界』に関しては名がないことが多いわ。ただ、その代わりに番号で呼ばれることが多いわ。貴方たちが召喚される世界は私が直接管理している汎用世界であり、一番目に創られた世界だから『一番世界』と呼ばれていた気がするわ。それから、教会や国は安全かどうかだけど、これに関してはYesともNoとも言えないわね。貴方たちが召喚される教会の教皇は私の第一使徒だから安全だけど、他の場所の教会も同様に安全かと言われるとそうでもないわ。何故なら、その教会が私を祀る教会とは限らないし、私を祀る教会だって何年かに一度は私欲にまみれた者が管理することだってあるの。私も詳しいことは言えないけど、力の大部分を失って、他の神族に色々なことを任せていた時期が長かったからね。国も同じように良い国もあれば悪い国もあるわ。そこら辺は貴方たちのいた世界と同じよ。例えば、軍事目的として貴方たちを欲する国でも、意外と優しく接する所や道具のように扱う所もあるのよね。だから、実際に会話したり方針を聞いたりした方が良いわ。引取先を選ぶ権利は貴方たちにあって、それを無理強いする権利は向こうにはないから。最後に汎用世界についてだけど、世界の種類について説明した方が早いかもね。誰もが持っている自分だけの世界である『深層世界』、神族など力ある者たちが自分の中に創れる『固有世界』、空間や世界の外側に広がる虚無などから創り出された『創造世界』などがあるのよ。『汎用世界』というのは大半の『創造世界』のことを指すわ。そして『固有世界』は主に自身の内部に創り出された世界であって、周囲に影響を及ぼさないようにして戦ったり、コッソリと作業をしたりするための世界よ。私のような格が高い者やかなりの力量や技量がある者であれば、内部と外部の時間を変えることも可能ね。『深層世界』は無意識下で創り出した世界であり、『固有世界』の下地になるものとなるわ。以上で大丈夫?」

「えぇ、ありがとうございます。」


 余計に気になることが増えたが、それらは後で纏めて調べることにしようと思う。

 その前に、自分の脳内にいる存在に確認しなければならない。


(ねぇ、君の力でこれから向かう世界についての詳細な情報は入手可能?)

〘それをマスターが望むのであれば。ただし、それには直接向こうの世界に向かわなければなりませんので、現段階では不可能です。また、詳細な情報を得るには最低でも5日間かかる可能性があります。引取先の決定期間中に行えるかどうかは・・・・・・〙

(そっちの方は僕が何とかするよ。何だったら自分だけでなく、友人たちに悩んでいるふりをしてもらって時間を稼ぐことも考えるさ。向こうに行けば大まかな推定時間を予測できるだろう?)

〘・・・・・・はい、可能です。〙


 返答がすぐに返ってこなかったことに珍しいと自分は思った。

 いつもならすぐに演算を行い、結果を告げてくるからだ。そして、その結果が外れたことなど一度もなかった。AIやスーパーコンピューターをも遥かに凌駕する演算能力を誇るのだから当たり前とも言えるだろう。そんな自分の相棒的存在に対する信用や信頼は高い。何だったら、友人や家族よりも圧倒的に高いと言える。

 しかし、いや、だからこそ、世界の解析を数分で行うという前代未聞にして初の試みには不確定要素が多く、断言できないのだろうと思った。


(ならば、話の内容から推測するに向こうはどんなに早くても最低でも5日間は教会に待機させるみたいだから、こっちはそこから5日〜10日後まで引き伸ばせてみせるよ。だから、君は解析の方に集中して。ちなみにだけど、今の精神修復率は?)

〘マスターの精神破損率は50%ほどにまで減少していますが、どうかしましたか?〙


 自分は精神異常者だ。それも、精神が破損しているという普通の精神異常者とは異なるものである。犯罪行為には走らないが、人間を人間たらしめている感情や欲などといった機能が欠落している。勿論、性欲があれば繁殖が出来るが、そのせいで他者に襲いかかることがないし、睡眠欲もある程度は必要だが、それ以上の惰眠をすることがない。それに食欲だって栄養バランスを考えて摂れば良いので、それ以上の暴食や間食がなくなって健康的となる。しかし、自分はそれが行き過ぎていた。自分という個で完結できてしまうため子孫を残すための機能である性欲は要らず、一度食べたらそのエネルギーや栄養を完全に取り込み、蓄え、そして半永久的に体内で活用することができるため食欲も要らず、記憶の整理も自分の力ででき疲労を感じず自己成長が出来るため睡眠欲も要らない。正しく、自分という個は自己完結することが出来てしまう、一種の完全体であるが故にあらゆる欲が不要と化した。また、感情にしてもそうだ。自分一人でも生きられる強靭な肉体と豊富な知識があり、毒やウィルスなどの耐性や抗体も持っている。だからこそ、何かに恐怖する必要がなく、何でも普通にできてしまうため達成感や悲嘆、歓喜などもない。

 だからこそ、血は繋がっていないが本当の家族のような存在のために、人間らしく生きられるように精神の修復を頼んでいた。自分の持つ一番の相棒に、リソースの半分以上を費やしてまで。その甲斐もあって、自分の精神はつい最近5割も修復が完了していた。

 自分のこの精神異常は修復すれば完治できるものではないことくらい既に理解していた。他でもない、相棒が精査して突き止めてくれたからだ。

 その結果、判明しているのは、


・どういう理屈かは不明だが、自分のこの精神の破損は現在進行形で続いている。

・相棒による治療が行われていなければ、常に削られていく虫食い状態である。

・精神が100%破損すれば、肉体にも影響が出る。(体力低下や自傷行為など)

・相棒がリソースの半分以上を費やしても10年間でようやく5割を治療できたが、これ以上は今までの2倍時間がかかると予想されている。


 このことから自分は何よりも精神の修復を優先させてきた。しかし、


(なら、精神の修復のためのリソースを全て解析に回して。そうして確実に5日以内に解析を完了させてね。)

〘っ!マスター、それでは精神破損率が最低でも75%まで上昇してしまいます!〙


 相棒の慌てぶりは予想通りであった。

 75%なら欲を切り捨てれば感情が表になりにくいだけで大丈夫だろうと思う。

 だからこそ、


(解析が早く終われば、向こうでの生存確率が大幅に上がる。少しでも長く生きていられれば、精神の修復は可能だろう?寧ろ、精神の修復にリソースを費やしていたせいで死んだら何もかもがお終いじゃないか。・・・・・・僕は君を信頼しているよ。)

〘っ!承知しました、マスター!私の名に賭けて、マスターの精神破損率を75%以上上げさせずに解析を完了させてみせます!〙

(うん、期待も信用も信頼もしているよ。ただし、無理はしないようにね。)


 そう言って、再び接続を切った。相棒は不思議な存在だ。生まれた時からずっといて、話すときなどは回線の接続を繋いだり切ったりするような感覚である。それにどこかAIと似たような感じもある。


『あんな出来損ないと一緒にしないでください。あれは私の存在を一瞬垣間見た者たちが勘違いをして造り出した粗悪品に過ぎません。もし私のように自立思考及び行動が可能な存在を作りたいのであれば、膨大な年月を必要としますが、何も記憶していない無垢な赤子の脳をコピーして育てるべきですし、演算能力を高めたいのであればスーパーコンピューターなるものを大量に用意して並列接続を行えば高い演算能力を獲得できます。その両方を求めるのであれば、特別な無線で繋げば良いだけです。』


 という、この言葉は本人の言だ。

 それができないから進歩していないんだけどな〜、と自分は思うのだが・・・・・・。




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