第一章 転生召喚編
第1話 まさかの死んでから召喚!?
真っ白な空間に一人の美しい女性が座っていた。いや、正確には一人ではなく、目の前にはたくさんの人間たちが眠っていた。そして、彼女はその中の一人の人間に膝枕をしながら、愛おしそうに頭を撫でていた。
「おや、もう起きてしまうか。少し撫ですぎたかな?もう少しこうしていたかったのだけど、まぁ仕方がないか。今度二人っきりで会った時のお楽しみとしておこうか。・・・・・・でも君は特殊な脳の構造を持っているようだから、この記憶は奪わせてもらうよ。この後不都合が生じるからね。」
独り言のようにも、誰かと会話しているようにも聞こえる。しかし、その声は寝ている者たちには聴こえない。
「それにしても、いつの間に君はそっちに行ってたんだい?君がいなかったせいで争う彼らを私が仲裁しなければならなくなったんだよ。え?彼が渡るずっと前から既にいて、彼の精神の修復を行っていた??あ〜、だから彼は私達が駆けつけた時は完全に壊れてもおかしくはない状態でいたのに、たった数十秒だけなのに少し回復していたのね。そう、ありがとう。」
しかし、彼女は未だ愛おしさを孕んだ瞳でたった一人の人間を撫で続けながら、聴いている実体はどこにもいない、されど、精神体で存在している誰かがいるこの空間に向かって告げるのであった。
「止まっていた時計の針がようやく動き出す。彼の意思により動いていた世界になるのか、それとも彼が望んでいたように、“人”が自らの意志で歩む世界となるのか。」
そこで彼女の話は途切れた。膝枕をしていた者が起きかけていたため、移動せざるを得なかったからだ。自分の地位がどれだけ高いものかを知っている。故に、たった一人の人を特別扱いはできない。そう、普通の人であれば・・・・・・。
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〘マスター、マスター!起きてください、マスター!〙
「う、うう、ここは・・・・・・?」
自分が目覚めたのは何も無い真っ白な空間だった。いや、何もないわけではない。周りには見覚えのある同級生たちの姿があった。
「これは・・・・・・!」
〘安心してください、マスター。皆、眠っているだけのようです。〙
「安心しなさい、少年。彼らはまだ眠っているだけだよ。じきに目を覚ますでしょうから。」
2箇所から声が聴こえた。
1箇所目は自分のよく知る声――自分の脳内にいる人工知能のようなもの、いや既存の人工知能よりも遥かに優れた知能を持つ何か。“アイ”という名前であり、人工知能を造る要因の一つとなった存在らしい。生まれた時からずっと一緒にいて自分に様々なことを教えてくれた、言わば『第2の親にして教師』である。ちなみに、テストの時とかは
そして2箇所目だが、その人物はこの空間に座っていた。この上も下も、何なら左右でさえ、床と思えば歩いていけそうな・・・『強く思えば実際にそうすることが可能のようです。』・・・・・・いける領域でよく座れるものだ。
「フフフ、どのように座っているのか気になる?ここは私が創り出した領域だから、簡単に操作できるだけよ。まぁ、君たちがやりたければ、まずはイスを作る必要があるけどね。それよりもそろそろ残りの彼らも起きそうよ」
「え?あっ!」
後ろを振り返って見ると、同級生たちが次々と『ううっ』といううめき声とともに起き上がっていた。よく見ると中には上級生もいるようだ。
「あ、零無!大丈夫なの!」
そんな声とともに自分を呼ぶ女性。それは自分よりも2歳年上の義姉――
「那奈
音々とは自分の義妹であり、那奈の実妹である。ちなみに、何故義姉や義妹であるのかというと、那奈や音々と自分は再従姉妹であり、本当の家族ではない。本当の両親は自分が3歳の頃に事故で他界しており、後見人となってもらうために養子として入った義理の家族となっている。那奈や音々の佐藤家は自分の本姓である
「音々?そこら辺にいるんじゃない?・・・・・・ほら、そこにいた。」
そう言って、那奈が指を指した所に音々がいた。
自分とは違い、血の繋がった姉妹にしてはやや冷たい態度であるが、同じ制服を着た人間がたくさんいる中で、それも音々がいる所は目を凝らさないと見逃してしまう所であったというのに、すぐに見つけられたことから気にはしていて自分に問われる前から探していたことが分かる。
(なんだかんだ言い争いつつ、実際には互いに気にし合っているのが分かるなぁ〜。本人たちの前で直接言えば絶対に色々と言ったり行ったりされるから言わないけど。)
一度、本人たちの前で言ってやられた経験があるため、迂闊に言えないのである。
「これで全員起きたかな?一番最初に起きたそこの彼と話し続けるのも良いけど、今の私が介入できる時間はそれほど長くはないからね。本題に入ろうと思う。」
自分が音々の元に来たと同時に先程の女性が話し始めた。
自分の方を指しながら言った時には周囲にいた全員がこっちを見てきたが無視をした。何故なら、彼女の言葉の意味を瞬時に考え続けなければならないのだ。
(介入?もしかして、よく小説とかに出てくる異世界転生?それとも異世界召喚?つまりは彼女は今から向かうであろう世界を管理する神とか?それに『今の私』?つまり、何かしらの要因で本来の力が使えないということか?)
周囲から目を向けられている間にも、自分は頭をフル回転させながら考え込んでいた。
「もう分かっている人もいると思うが、君たちがこれから行くところは異世界であり、私はその世界の神だ。もっと言えば君たちの世界の神でもあるし、神は他にもいて、私はその神々――神族の代表、即ち、神族の王をやっている存在よ。」
一瞬だが空気が変わった。恐らく感じたのは自分だけだろう。周囲の皆は小説の中でしか起きないような事態であるから嬉しいのだろう。だが、自分には感じた。神族の王と言った瞬間、自分たち人間のように様々な感情が混ざった目をしていたから。
(あれは、憂い?嘆き?悲しみ?怒り?・・・・・・とにかく様々な感情が混じっていたことは分かった。それに一瞬ではあるが、王らしい威厳のようなものも感じた。けど、この胸のざわめきは何?こんなのは知らない。感じたこともない。なのに、自分はこれを覚えている?)
自分は一人困惑していた。いや、他にも困惑していた者はいたのだが、自分のそれは彼らとは異なっているだろう。
「では、貴方のことは何とお呼びしたらよろしいのでしょうか?」
この質問は自分ではなく那奈だ。
「私に対して敬語は不要で構わないよ。むしろ、こっちが君たちに謝罪をしなければならないのだから。それと私のことは『全能神』または『神王神』とでも呼んでくれると嬉しい。」
「わかりました、全能神様。ちなみに、謝罪というのは・・・・・・?」
それは自分も気になっていたことだ。そもそも自分は死んだのか、それとも召喚されてきたのかが思い出せない。
(ねぇ、僕がここに来る前は何をしていたっけ?)
自分の脳内にいる自分が一番信頼している者に問いかけた。すると、
〘はい、学校行事のため会場までバスによる移動を行っていました。そのとき突如、天候が悪化して吹雪となり、元々積もっていた雪が雪崩を起こしてマスターが乗っていたバスを埋めました。この場にいる人数から逆算すると、埋もれたバスは計10台と予想されます。中学生は1年が1クラス、2年が3クラス、3年が1クラス、高校生は1年が2クラス、2年が4クラス、3年が3クラスの計14クラスとなっております。奇跡的に途中の何台かは生還できたようですが、この場にいる全員が生き埋めになったようですね。〙
そう返答が返ってきた。
「謝罪というのはね、君たちをここに連れてきた理由でもあるんだよ。結論から言うと、君たちは今死んでいる。正確に言うなら死んだけど召喚するために蘇生させたんだけどね。覚えているかな?君たちは学校行事というものを行おうとしていて、その場所に行くためにバスに乗っていた。しかし、」
驚いた。まさか、死んでから召喚を行うとは思ってもみなかった。
一区切りおいて、全能神と名乗った彼女が顔をこちらに向けた。自分に頼みたいのだろうか?もしかしたら、現場にいた当事者の話も確認したいのかもしれない。
「しかし、出発当初は快晴で周囲には雲一つなかったというのに天候は急変して吹雪に見舞われた。安全確保のため移動中のバスを全車両停車させた。その場所は運悪く山際の近くであったが、そのまま進めば曲道が多いため転落事故の危険があり、その時点では最善の判断であった。いや、今でも最善の判断であったと断言できる。たとえその後、山に積もっていた雪が雪崩を起こして私たちが生き埋めになってしまったとしてもあの場では下手に動くよりも安全であったからだ。」
それにしても、何故自分が説明できると分かったのか、疑問に思いながらも話を続けた。この場には、同じバスに乗っていた教員や運転手が30名ほどいたが、自分が最後に『最善の判断だ』と断言したためか、全員がホッとしたかのようだった。
(あぁ、そういえば安全のために全車両を停止させたのは、運転手と教員たちだったな。彼らにとって、自分たちがあのまま進めていたらこのような事態にならなかったのだろうと思っていたのかもしれない。)
過半数の者が訝しげな視線を向けていたが、恐らくは『何でそんなことを覚えているんだよ。』と言いたいのだろう。同級生や家族は自分の【瞬時完全記憶能力】を知っているため、そのような視線は送ってこなかった。
「先に言っておきますが、この状況は自分の仕業ではありません。でなければ、わざわざ神族の王が謝罪しに来るわけがありませんよね?自分がなぜ詳しく説明できるかと言うと、自分の同級生や家族、あとは先生方も既に知っていると思いますが、【瞬時完全記憶能力】によるものです。たった一瞬の出来事であっても、振り向いた途中にあったものでも、何気なく見た木の葉っぱ一枚一枚であっても、正確に記憶できてしまうという能力であり、まぁ、毎度試験で満点を取れてしまう原因もこれにあります。」
この話をすると、聞いていた者の大半は羨ましがったり、妬んだりしてくる。実際に持っている者の気持ちも知らずに無遠慮に頼ってくることもある。だが、以前にこの話を聞いたことのある者は反射的に顔を背けるか、しかめっ面をした。当たり前である。何故なら、
「はっきり言って、この能力を持っている自分からすれば地獄ですよ。何でも、たとえ一瞬の出来事であっても記憶できる。それだけ聞くと、誰もが羨ましがり、同時に妬ましく思うことでもあるでしょう。それがあればテストだって余裕で満点が取れてしまいますからね。ですが、何でも記憶できるということは、同時に覚えたくないことであっても強制的に覚えさせられ、忘れたいことであっても忘れることができないということですよ。例えば、貴方の目の前で人が殺されました。貴方は反射的に殺された相手に近づき、生きているかどうかの確認を取ります。しかし、その相手は死んでいるというのにどんどん血を流しています。その血の感触、殺された相手の体温、殺した相手の顔や凶器などなど、考えただけでも恐ろしいですよね?そして人間はそれを忘れようとする働きが無意識のうちに働く。しかし、この能力を持っていればどうでしょう?その時の状況を細かく覚えていられるが故に生々しい血の感触が、相手の顔が、恐ろしい凶器が、頭の中から忘れられない。今もなお、その現場にいるかのような感覚に陥る。それでも貴方方はこの能力を羨ましがりますか?妬みますか?」
一度聞いた者は苦虫を噛み潰したかのような顔をした。忘れようとしていたのか、耳を塞いでいる者もいた。そして、初めて聞いた者は絶句してしまった。寒気が走った。それほどまでに自分の言葉はリアルだったのだ。神様である全能神でさえも、その美しい顔を歪め、辛そうな表情をしていた。そして、何か言いたげではあったが、言う言葉が見つからないのか腕がピクピクしたまま無言であった。
「自分は一度、経験しました。実の両親の事故死という現場に。当時は3歳になったばかりの頃でしたね。自分だけは奇跡的に助かったものの、両親は私を守るかのように、いえ、実際に守っていたのでしょう。私にはこれといった外傷がなく、ほぼ無傷の状態で救助されましたが、私を抱きしめていた母親は背中や頭部、腕などにガラスが突き刺さり、後から聞いたことですが、一番大きなものは背中から心臓を貫くようにして刺さっていたそうです。そして父親は車を駐車場に停め終わり、車から出るためにシートベルトを外していたのが幸いしたのか、ものすごい勢いで走ってくる車に気がついたものの、車から出ずに私の母に警告を出して私を守るように抱きしめさせました。そのせいで父は母よりも酷く、全身にガラスや金属の破片が突き刺さり、その上で潰されました。一瞬の出来事に目を閉じていた私でも完全に閉じきる一瞬に起きた出来事が今でも脳裏に焼き付いていますよ。」
もう止めてくれ、と誰もが思った。だが、思っただけで口に出すことができなかった。本能がそうさせろ、このまま言い続けさせろ、と言っているかのようであった。
「もうその話は止めようか?この世界であまりネガティブになっていたら、存在が希薄化して完全に消滅してしまうよ。確かに蘇生はしたが、この場所は君たちの召喚に干渉したことによって創り出された精神世界のような所であって、精神が消えれば肉体の所有権も失う。つまり、死んだものと変わりのない植物状態になる。そんなことになったら私は私自身の存在を代償に時を巻き戻さなければならなくなる。これは禁則事項に抵触する危険性があるし、今は神族の王である私がまた力を失うとまずい状況にあるから勘弁してほしいな〜。」
言葉だけなら冗談っぽく見えるが、若干額に汗が流れているということは冗談ではないのであろう。周囲も全能神の言葉が冗談ではないことを感じ取り、再従姉妹の那奈や音々を筆頭に、友人たちも何人かが近づいてご機嫌取りのようなことをしていた。
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(あとがき)
次回は10月15日となります。
そこから2週間後までは恐らくこの作品の更新が続きます。
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