第0話 プロローグ
どこかの世界の、どこかの国にある、どこかの場所。そこにある家に住むとある親子がいた。父親は稼ぎに出かけて、家には母親とその子供が留守番をしていたのだ。
「ねぇねぇ、母さん。これなあに?」
ふと、家の本棚で絵本を漁って読んでいたはずの子供がいつの間にか母親の所へ来ていた。その手には一冊の分厚い本をもっていた。子供はまだその本の内容を読んだことがないので知らない。あるということも知らされていなかったので気になって読もうとしたが、分からない文字が多すぎて読めず、母親の所へ聞きに来たのだろう。この子供はいつも、気に入った本や気になる本、わからない本を見つけては、母親の所に聞きに行っていた。
「ん?これはねぇ、ずっとずっと昔に始まった『聖戦』と呼ばれる長い戦いを終わらせた時のお話よ。」
その子供にとっては分からないものだから、親に聞いて教えてもらおうと思っただけなのだろう。何度も読んだことがあるからなのか、それとも長い年月を経ていたからなのか、本自体はボロボロで、表紙はすでに色褪せていた。だが、不思議なことに本の中身は色褪せたような暗い感じの色になっているが、破れたりはしておらず、文章はまだ読むことができるものだった。ただし、子供はそんなことよりも、表紙にある絵はどこか歴史書の物語を思わせる感じになっていたことが気に入っただけかもしれないが。だけれども、母親にとっては大切なものであるようだ。
子供にはそれがわかる。何故ならば、その本を見せた瞬間、少し驚きながらも、どこか懐かしむような感じの顔をするからだ。これは母親が大切なものや思い出深いものを見たり、聞いたりした時に見せるちょっとした癖であったからだ。
「『せいせん』って何?」
「『聖戦』って言うのはね、今では教会などが特定の戦いをする時に、その戦いのことを『聖なる戦い』ということで『聖戦』って言うことが多いんだけどね。とある神族やそれに近しい者など、この物語を実際に経験した者達、あとはこの物語が終わった数百年後まで生きていた者達にとって、『聖戦』とはたった一つの争いのことを指していたのよ。『己の正義のために、神々やその眷属達が主体となって戦い、争った戦争』、それを『聖戦』。由来は『正』と『聖』をかけたと言う説や勝った者達が『聖なる者達』だったからと言う説もあるけど、『当時の正義は、周りから手を加えられたり汚されたりせずに、誰もが輝かしい神聖なもののようでもあったから』と言う説が有力ね。当時は誰も彼もが、それこそ敵対した者達の中にも、とある王様のためを思い、戦っていたらしいから。最初の頃は激しかったんだけど、途中でそのとある王様やそれに従う者達のトップが行方不明になったり、負傷して動けなくなったりして、停滞・・・・・・え~とねぇ、争いが一時的に穏やかになることなんだけどね。本来なら喜ぶべきことなんだけど、停滞を作ってしまった要因となったとある王様がいた陣営にとって、敵対している者達は裏切り者であり、許されざる者達だった。また、敵対している者達も、降伏はしなかった。そんなピリピリとした嫌な感じの状態が悠久とも思える長い年月、続いていったの。」
「?、??」
子供には長すぎるし、なにより難しい言葉ばかりで理解できなかったのだろう。現にその子供はキョトンとした顔で首を傾げていた。
「あぁ、こんな事を言ってもまだわからないわよね。あなたは嫌な雰囲気に包まれた空間で生活できる?例えば、私があなたのお父さんと毎日ずっと喧嘩をしているところとか。」
「嫌だな〜。僕は逃げるか止めに入るかなぁ?」
「ウフフ、今のあなたと同じような考えを持っていた者たちがいたのでしょうね。やり方には問題があるけど、結果としてとある王様はこの世界に戻ってきたの。行方不明と言われていた自らの配下たちとともにね。」
「え?じゃあ、争いはすぐに終わったの?」
「いいえ、そうしてしまうと民達は自らの力で道を切り拓くことをしなくなってしまうと王様は憂いたのでしょうね。最初は陰からそっと手を貸す程度だったらしいわ。ただ、それでも対処できないような絶望が民達に襲いかかってきたの。その王様は最後の決断をしたそうよ。その絶望を打ち払うことのできる力を人は秘めているのだと証明するために、自らの命や存在を犠牲にしてまで、消える最後まで民達のことを思ってね。もしかしたら、敵対していた者達にも何かを伝えたかったのかもしれない。今となっては直接聞かない限りわからないけど。」
そこで、子供はふと疑問に思った。
「あれ?王様は消えたんじゃないの?」
「いいえ、確かに王様はそのときに消えてしまったけど。でもね、いるのよ。その王様をその後に見たって言う人も。だから、私達は信じているの。どこかでその王様は見守っているのではないかって。」
「へぇ〜、じゃあ、その物語を聞かせて〜!」
「良いわよ。これはね、とある神々の不祥事から始まったの。」
そうして、この物語は始まっていく。
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