ネットとリアル

西影

呟き

 心地よく揺れる通学途中の電車の中、俺は今日もスマホでSNSを開いていた。誰もが気軽に呟ける人気のアプリ。俺は何も呟かないが、誰かの呟きを見るのは純粋に楽しい。


 動画、画像、日常の呟き、宣伝漫画など、どんどん情報が流れてくる。今日も今日とて平和だ。有名人が遊びに行ったことを呟いたり、良いことがあったと報告している。リアルもネットも充実していて羨ましい。俺なんて夏休みが終わって明日から授業が始まるというのに。


 スクロールして何か話題を探していると、最近好きになったweb小説家の呟きが飛んできた。


『今日からまた学校か。行きたくないなぁ』


 陰湿な呟き。同い年なのに多くのファンを持っている人とは思えない発言だった。ネットではあんなにも人気で、面白い会話を作ってるのが嘘みたいだ。


「ふむ……」


 なんで学校に行きたくないのだろうか。いじめに遭ってるから? クラスに友達がいないから? 勉強が嫌いだから?


 これだけじゃ何も分からない。もっと具体的なことを言ってくれた方が個人的には嬉しいんだけどな……。


「っと、そろそろか」


 ドアが開き、流されるように電車から降りる。そのまま一人で登校していると見知った男子生徒を発見した。何やらスマホをずっと操作していて危なっかしい。少し歩を速めてそいつの肩に腕を回す。


「よっ! 何やってんだ?」

「え、えと、いや何もしてないよ」


 愛想笑いを浮かべながらもスマホの画面は俺に見えてくれない。まぁ、近づいてる時に見えていたから今更隠しても仕方ないけど。


「それより今日の始業式のあと暇か? よかったらカラオケ行こうぜ」

「カラオケ? 別にいいけど、どうして急に……」

「学校始まったから気分上げないとやってらんねぇだろ」

「そ、そうだね」


 軽い雑談をしながら久々の通学路を二人で歩く。話し始めは暗かったそいつの顔も、今じゃ楽しそうに笑っている。クラスが変わって話すことが減ったからか、こいつと話すのに話題が尽きなかった。


「それじゃ、また放課後な」

「うん。バイバイ」


 廊下で別れて各々のクラスへ向かう。その間にポケットに入れていたスマホが震えた。


『今日は久々にカラオケ行ってきます。ちょっと楽しみ』

「もっと素直になれよ」


 web小説家の呟きに小さく感想を吐いてクラスに入る。話せば明るくなるんだから、もっと周りと関り持てばいいのにな。もったいない。

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ネットとリアル 西影 @Nishikage

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