船出を振り返る

「明日ってなったけどよ、別に今から向かってもよくねえか?」


「レイさんの言う通り準備して向かった方が、後で何が起きても困らないから、僕はしっかり準備するよ」


 2匹の子猫は明日の冒険に対する準備に関して話しをしていた。

 巨大スケルトンの脅威が去ってまだ間もないのだが、2匹の心は落ち着かないのか、それぞれ言い合っていた。


「何が起きてもって言うならよ。今すぐにでも向かった方が良いじゃねえか。ほら、人間のことわざで言うだろ。先んずれば人を制すって」


「うぐっ。でもほら、備えあれば憂いなしとも言うでしょう?」


「うぬ、他だと、そうだな……。腹が減っては戦は出来ぬ。猫にツナ缶。河童、危機一髪だったか」


「最初はともかくあとの2つは聞いたことないよ。猫にツナ缶は兄ちゃんの願望でしょ」


「ツナ缶くれるんならマグロがいいな」


「マグロはツナだよ」


 話しの行く末が怪しくなった。黒ひげはいずこ、というツッコミもないまま、ルナはそういえばと話しだした。


「河童の川流れだと思うけど、僕達は川どころか海に流されたよね」


「みんな同じ島に流れたのは運が良かったといえるな」


「難破しちゃったから素直に喜んでいいのか複雑だけど、そうだね。不幸中の幸いだよね。でもここ、本当に不思議だよ。海は海だけど、ここの海って地底世界の海でしょ。まさか人間がいるなんて」


 角材やら石材やらを運ぶ人を見つめて、ルナの大きな瞳が疑問符を浮かべた。


「地底世界は猫が文明を築いたんだよね。人間がいるのも不思議だし、このカードも不思議だよ」


 青紫の宝石が嵌め込まれたケースを抱え、ルナが気になるもの全てに視線を当て周った。


 なぜ人が猫サイズなのか。

 なぜあんな敵が小さな島を襲うのか。

 なぜカードにこんな力があるのか。


 激闘を広げた森林や、漂流地であろう海岸、レイさんが用意してくれた家など、くるくる周っては猫科特有の動きで瞳を光らせていた。


「不思議だな。こんな小さな島なのに、家とか噴水とか、人間世界の街と似てる」


「街中を走り回ってた時もよ、吊り甲板だとかレンガだとか、おもしれーもんいっぱいあったからな。こんな小せえ島でよく頑張ってるぜ。気持ちよく駆け回れたのは住民達のおかげだな」


「街を案内しようとしたら兄ちゃんが突然走り出すんだもん。しかも、網に捕まってるし謝りに周るし大変だったよ」


 ニャッハッハ、と高笑いがルナのため息をかき消して、さざ波と復興の声が広がった。

 小さな島であるがゆえに、自然の音と人の声が程よく聞こえる。のどかとも言えるし、自然の中で生活する人のたくましさが窺えるともいえるバランスで、その光景を切り取って絵画として飾りたい程、人と自然の暖かさが一体となっていた。


 それが一種のヒーリング効果でも宿しているのか、ゴマもルナも、キラキラとしている海を静かに見つめていた。


「……転身出来なかった時はちょっぴり困ったけどよ、この街が破壊されてると思うと、力が抜けちまってもどうにかしてやりてぇと思ったんだ」


「どうして?」


「起きたばっかで街の事も住民のことも良くわかんねえけど、魚はくれるし、ルナやソールさんも歓迎してくれたしな。だけど、なんていうか、恩とかじゃなくて、大切じゃないけど大切みたいな。そんな風に思ったんだ」


 柄にもないことを言ってる。そう思ったのか、ゴマは「何でもいいけど新しいカードの練習がしたい」と言って、ルナを引き摺っていった。


「兄ちゃん、練習より準備しようよ」


「てめぇはまだ危なかっしいところあるから、ボクが直々に教えてやるよ。まずキックの練習だな。相手に飛びかかれたらどうなるか教えてやる」


「それ根に持ってたの!?」


「持ってねえよ! 練習だ練習! 飛び台にされる苦痛を教えるんだ!」


 ルナの泣き声とゴマの叱責が、街の音として響いた。

 地下にあるダンジョン。そこに待ち受けるものは何なのか。期待と不安を抱えて、今日を過ごす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強猫勇者ゴマ、カードバトルでも最強になる。〜難破して目が覚めたらカードでしか闘えませんでした〜 無頼 チャイ @186412274710

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ