ほどけメロス
kanimaru。
第1話
メロスは馬鹿だった。
それもとてつもなく、だ。
そのうえ変に正直者で、悪を嫌う正義漢だった。
そんな友人にセリヌンティウスはよく振り回されていた。そして今日、二年ぶりにこのシラクスの街にメロスがやってくるらしい。
いくら振り回されていたとしても、友人は友人である。セリヌンティウスは彼の来訪を待っていた。
しかし夕方になってもメロスはこない。あの男のことだ、どこかで人助けでもしているのだろう。そう思っていると、突然兵がやってきた。俺は王城へと連れていかれた。
そして俺は王城に着くといきなり、縄をかけられた。
「えっ⁉ちょっ、何⁉」
てっきり石工の仕事の依頼かと思っていたがそうではないらしい。
訳が分からず困惑していると、メロスが現れた。
「おいメロス!何が起きてんだ⁉」
メロスに尋ねるとメロスは、来てくれたのか、と笑みをこぼした。
いや、来てくれたのも何も、勝手につれてかれただけなんだが。
そこでメロスは、状況を説明し始めた。
必ずあの邪知暴虐の王を取り除かねばならないと思ったこと。死刑にされるところだったが、妹の結婚式があるから先延ばしにしてほしいと頼んだこと。信じてもらえなかったため、セリヌンティウスを人質にすると言ったこと、などだ。
「…わかってくれたか」
長々と説明した後、メロスはそう言った。
俺はなかなか状況を飲み込めなかった。
「…え?じゃあ俺、お前が帰ってこなかったら殺されんの?」
「そう言うことだ」
「お前馬鹿じゃねぇの⁉」
そばにいた王様も飛びのくほど大きな声を俺は出した。
「何勝手に人質にしてくれちゃってんの⁉ねぇ!せめて聞いてからにしろよ!いや聞いてからだったらOKしないけどさ!三日って無理でしょ!お前車持ってないじゃん!免許持ってないじゃん!筆記試験で七回落ちてんじゃん!」
「先週、自転車も壊した」
「じゃあ走ってくんのお前⁉無理でしょ!無理無理!」
「…すまぬ」
「すまぬじゃねえよ!何神妙な顔してくれちゃってんの!こっちがしたいわ!てかお前妹居たのかよ!知らなかったわ!しかも邪知暴虐なんて言葉お前知ってたのかよ!そこも腹立つわ!」
「邪知暴虐ではない。奸佞邪知だ」
「そっちのが難しいわ!奸佞邪知なんか、パソコンの予測変換にすら出てこねぇんだぞ!」
「…すまぬ」
「いやどこで謝ってんだよ腹立つなぁ!もしお前が間に合わなかったらどうしてくれんだよ!」
「その時は成仏してクレメンス」
「ふざけんなよ!クレメンスがこの状況だったらピーンボールどころか全力の頭部死球でお前のこと殺してるわ!」
「…クレメンスって誰?」
「知らないで使ってたのかよ!ますます腹立つわ!」
「ま、三日後には帰ってくるから」
「てめぇえええええ!」
軽い足取りで王城を出ていったメロスに向かって、俺は絶叫した。
「あのう…もう三日目の日が沈みますけど……」
「そうじゃな。死刑だ」
「うそーん!王様、冗談でしょ?あいつただの馬鹿だから。勝手なこと言ってるだけだからさ、殺すのはやめてくださいよ」
「約束は約束だ。どんな状況でも、日が沈んだタイミングでお前に縄がかかっていたら容赦なく殺すからな」
「いやだから勝手に約束されちゃったんですよ。俺の命、メロスの約束でなくなるの?そんなのっておかしくない?」
俺は必死に訴えたが、王様は俺を刑場へと連れて行った。
「王様!ファンです!ファンです!ずっと前から好きでした!推しです!同担拒否です!そのほっぺのシミが好きです!」
死刑台の上で、何とか取り消してもらおうと訴えたが、王様は全く聞き入れる様子はない。
あきらめかけたその瞬間、刑場にいたすべての人から大歓声が起こった。メロスが来たのだ。
「セリヌンティウス!間に合ったぞ!」
「メロスー!!信じてたぞーー!」
そしてメロスは、ヘロヘロになりながら死刑台の上まで登ってきて、俺にかかっていた縄をほどこうとした。
「あれ…方結びになっちゃったぞ……」
「嘘だろおい!早くほどけメロス!日沈むって!」
「今度は八重になっちゃった……」
「てめぇえええええええええ!」
シラクスの街に、俺の絶叫が響いた。
ほどけメロス kanimaru。 @arumaterus
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます