七日目 共生にて

「昨日はお見苦しい姿を見せて申し訳ございません」


「ええ、もうすっかり元気になりました」


「これもアナタのおかげですね」


「……ちゅっ」


「朝食の用意は出来ています」


「ゆっくりと支度なさってください」


 *


「外の仕事をお任せしてしまい申し訳ございません」


「畑の様子はどうでしたか?」


「五日前とは段違い?」


「うふふ……もう芽が出て来そうなのですか?」


「育てる人間が良いと野菜の育ちも良いのですね」


「ええ、料理でしたらお任せください」


「とびきり美味しい、アナタ好みの品をお出ししますから」


「収穫の時期が待ち遠しいですね」


「アナタと過ごすこれからが楽しみで仕方がありません」


「地下倉庫の物を処分しても良いか……ですか?」


「ええ、構いませんが……処分するにしても大変ではありませんか?」


「ひとつひとつの重量もありますし……」


「まあ、私が運ぶのであれば問題はありませんが」


「まずは器具を洗って……明後日にでも廃棄しましょうか」


「拷問器具への思い入れ……?」


「……アナタは私を勘違いしていらっしゃるのですか?」


「まさか、拷問をして血を絞り出すのが大好きな吸血鬼だとお思いで?」


「言ったではありませんか」


「アレは以前の管理者の所有物であると」


「私が用いたのは精々、獣相手です」


「言ったでしょう? 両の指で数える程度しか使用していない……と」


「趣味の悪い管理者と……獣」


「ほら、両の指で数え足りますよね」


「ほっとしましたか?」


「それとも、軽蔑?」


「アナタがどんな疑いを抱こうと、永い年月をかけて愛情へと昇華させてみせます」


「ですからご安心ください」


「……そもそも疑っていない?」


「……ええ、そうでしたね」


「信頼」


「してくださっているのでしたね」


「さあ、そろそろ日が沈みます」


「ご自分の支度をなさって来てください」


「私も準備を済ませてお待ちしておりますので」


 *


「…………お待ちしておりました」


「どうしました?」


「見惚れていた……?」


「……ありがとうございます」


「用意した甲斐がありました」


「アナタも似合っていますよ」


「……契りを交わすのに持って来いの月夜ですね」


「そうは思いませんか?」


「ふふ……始めましょう」


「健やかなる時も病める時も、共に歩んで行くと誓いますか?」


「誓いの言葉が短い……?」


「仕方が無いではありませんか」


「私は吸血鬼ですよ? 聖職者ではありません」


「それとも、性急なのは嫌いですか?」


「誓えるのであれば誓いの口付けを……」


「ふふ……」


「身構えて…………お可愛いこと」


「さあ……目を瞑って……」


「んっ…………」


「…………」


「…………」


「互いの唇を重ねるキスは、思えばコレが初めてでしたね」


「……もう一度」


「ん…………はむ…………」


「もう…………一度…………」


「んっ…………んぅ…………」


「誓います」


「例え世界が別たれようと」


「天地が引っ繰り返ろうと」


「アナタを護り抜き、共に生きてゆきます」


「ですので……その」


「少し恥ずかしいのですが……お願いを聞いていただいてもよろしいですか?」


「キスよりも恥ずかしいこと……?」


「え、ええ……そうですね」


「私にとっては……ですけれど」


「アナタの薬指に……牙を立てる事を許していただけないでしょうか?」


「み、右手ではありません」


「左手の……です」


「分かって言ったでしょう……?」


「もう……意地悪なんですね……」


「…………是非お願いしたい?」


「……ありがとうございます」


「では……左手を差し出してください」


「…………かぷ」


「…………」


「…………ん」


「ありがとうございます」


「私と出会ってくれて。受け入れてくれて」


「これから毎日、私に癒されてくださいね」


「ええ」


「心より――――愛しています」


「大好きです……うふふっ」

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妖しい雰囲気のシスターが住まう教会に駆け込んで~あら?こんな夜更けにどうしました?~ 本庄缶詰 @honjokan

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