六日目 渇望にて
「んッ……」
「ハァ……ハァ……」
「かぁ……!」
「んッ……ハァ……」
「っ!?」
「ご、ごめんなさい……起こしてしまいましたか?」
「昨夜も血を頂いたというのに……」
「私ったら我慢出来なくて……」
「今まではこんな事……無かったというのに……」
「アナタの血を吸ってからというもの……吸血衝動を抑えられなくなってしまっています……」
「本当に……ごめんなさい」
「傷を……塞ぎますね……」
「…………ん」
「大丈夫ですか?」
「体調は?」
「頭がぼうっとしたりしませんか?」
「平気……?」
「そ、そんな訳は……」
「いえ…………申し訳ございませんでした」
「少しだけ……距離を置きましょう」
「せめて今日だけでも……」
「これ以上アナタの姿を見ていると……本当にどうかしてしまいそうで……」
「……………………」
「手を……離してください……」
「アナタに恐怖され、拒絶される事こそが私の最も恐れている事態なのです」
「怖く……ない?」
「それは今だけです」
「先程の様に理性を失い、アナタが枯れ果てるまで血を貪ってしまう」
「力で敵わない怪物に組み伏せられ、身体から熱が消え失せる感覚」
「それをアナタに感じさせたくはありません」
「……なっ!?」
「は、離してください……!」
「いま抱きつかれたりなんてしたら……」
「我慢……出来なくなってしまいます……」
「ふぅ……ふぅ……」
「笑わないでください……必死に耐えているのですよ……?」
「信じている……?」
「…………」
「アナタって人は本当に…………」
「アナタの信頼に応えられるよう……頑張りますね」
「ふふっ……アナタの方から側にいたいだなんて……」
「たくさん甘えさせて差し上げます……ですので……」
「私のことも……たくさん甘やかしてくださいまし……」
「…………こうして頭を撫でられていると、自分が鬼だという事を忘れられるのです」
「温かくて、どこか懐かしい」
「心の底から安心出来る」
「昔の事はもう殆ど覚えていません」
「ずっと独りで生きて……まるで悪い夢のようで」
「灰色の世界の中に、ただ一人」
「色を孕んだアナタを見つけた時の事は瞼に焼き付いていて剥がれません」
「私の飢えを満たしてくれる」
「私の心を埋めてくれる」
「私だけの運命」
「私はきっと……アナタに出会う為に生まれて来たのでしょう」
「もう、独りでは生きていけません」
「アナタ無しではいけない存在になってしまったんです」
「責任を取ってください」
「その代わりとして……限りない幸福でアナタを満たしてみせます」
「はい……誓います」
「ですので……」
「どうか」
「私と共に――――生きてくれますか?」
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